薬毒
息も出来ないくらいきつく抱き締められる。
繰り返し落とされる口付け。
額に、瞼に、唇に。
まるで大切な宝物でも扱うかのように指先の一本一本にまで悟浄の唇が伝う。
神聖な儀式でもあるかのように瞼を閉じた悟浄の表情。
カーテンを閉ざしてあるとは言っても仄明るいこんな昼日中でなければきっと気が付く事も無かった。
知らない。こんな感情は。
長くも無ければ短くも無い人生の間自分の事をこんな風に扱ったのは悟浄一人きりだった。
苦しくて息が出来ない。
駄目だ。
こんなに優しくされては駄目だ。
勘違い、しそうになる。
こいつが大切だと思っているのは本当は俺なんかじゃなくて。
俺の中に見出した幻影だと。
分かっているからこんなに苦しくなるのだ。
常に追われ命を狙われていると言う俺にとっては身に馴染んだ、 それ以外の者にとっては異常と言える極限下で始まった関係はその緊張のピークを越えた後も続いていた。 極限が終わってしまえば後に続くのは惰性のみだ。
自分にとってはその極限こそが惰性だった。だから淡々と惰性のみで続く日常を堪える術を知っている。 叫び出したくなる程の単調な日々をずっと気になっているササクレ程度に無視して圧し殺す事には馴れている。
だが悟浄には最早維持されていない極限の後に始まる惰性はそのうち倦み耐えられないものへと変わるだろう。
早く、早く。
何時か醒める夢なら早く。
縋る事に慣れてしまってはいけない。
悟浄の肩先に伸ばしかけた指先を意思の力で留めシーツを握り締める。
指が痛くなるくらいに。
「さん、ぞ」
動きを止めて少し息を乱しながら悟浄が指を絡める。
「こんなにガチガチになっちゃって」
小さく笑いながら指をシーツから引き剥がそうとする。一本ずつ。
「やっぱ久し振りだから辛い?」
シーツに掴まっていた最後の一本が丁寧に解かれたかと思うと悟浄の唇へと導かれる。
優しく触れられて息が止まりそうになる。
溺れそうだ。
「ほら。腕回して」
両腕を捕られて。
「俺に掴まって」
指先に悟浄の滑らかな膚が触れる。
旅の間に幾度も縋ったその肩の感触にどうして良いか分からなくなる。
この侭溺れてしまいたい。
温かい。熱い。熱い。
・・・・・・あつい。
この心地良く身を浸す毒に溺れてしまいたくて。
息が止まる。

花満天」4〜5の間。
「花満天」がどうにも終わらなくて、と試行錯誤していた間の産物。

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