ringfinger 4
ピンポーン

間延びした音に八戒がドアを開けるとそこには三蔵がいた。
「泊めろ」
断られるとは露ほども思ってない命令口調で告げると三蔵は開かれた侭のドアから勝手に屋内へと足を進める。
「また喧嘩ですか」
良くそんなに喧嘩の種がありますね、当然の顔をしてソファに腰を下ろした三蔵に呆れながら八戒が言うのにも三蔵は重々しく噤んだ口を開かない。
「以前も言いましたけど、ウチはお客様用の布団がないんですよ。今の時季にソファだと風邪をひきかねませんし」
「買え」
「三蔵もお金、出してくれます?」
容赦のない簡潔な一言にそう言ってみると
「だったら適当な宿にでも泊まる」
あっさり言って三蔵が立ち上がる。
「冗談ですよ」
些かの未練もなく部屋を出ようとする三蔵に慌てて八戒が押し留める。
「・・・・・・」
「喧嘩の原因を教えてくれたらタダで泊めてあげます」
「邪魔したな」
「八戒ッ!」
一瞬の躊躇もなく背中を向けるのを押し留めたのは、今度は必死な悟空の声だった。
「なあっ八戒、俺が三蔵と一緒に寝るからッ」
問題点を取り違えているのかわざと分からない振りをしているのか。 ともあれ、悟空の呼びかけに八戒は「しょうがないですねえ」と答えたのだった。





狙い定めて撃ち込む弾丸を交わしながら悟浄が言った台詞を三蔵は思い出す。
「イヤ、ちょっとした冗談っつーか、ほら、ジョークジョーク!」
自分が持っていながらのうのうと何故自分が渡した指輪をしていないのか、 などと尋ねて来た事が冗談で済むのなら河童の変死体がゴミの日に出されていても冗談で済むだろう。
寺から戻り法衣を脱いで着替えた時、自室には見覚えのないような物は見当たらなかった筈だった。 うわの空で飯をかき込んで急いで部屋に戻りぐるりと見渡してみた時にもやはり悟浄が言っていたようなシロモノは見掛けなかった。
あの時の、自分は取り返しのつかない事をしてしまったのではないかという、 ぞくりとする程の恐ろしい感覚。
一体、俺があの時どんな気持ちでゴミ箱までひっくり返して漁ったかアイツには分からない。
陣取ったソファから動く事無く三蔵はそう思う。


「三蔵。これ、悟浄に持って行ってくれますか?」
物思いに耽る三蔵の目の前に突然布で包んだ箱が差し出される。その包みを持つ長い指に、三蔵はイヤという程覚えがあった。
「温めて食べて下さいね(はぁと)」
「俺は今日は帰らんと・・・」
「奮発して海老フライ、揚げちゃいました。お願いしますね」
その言葉と共に包みを無理矢理手の中に押し付けられる。
「三蔵、今度は悟浄と一緒に来いよ」
海老フライ、楽しみにしてたんだから。
そう告げられて、自分の転がり込んだ先の住人達のお節介さ加減に三蔵は眩暈を覚える。
何より耐え難いのは、それでも俺が、俺自身があのどうしようもないアホの事を好きだと言う事だと。
知りながら言葉に出す事の出来ない三蔵は渋々包みを両手で受け取った。







これでもしあの河童が夜遊びにでも出ていたら今度こそ本当に愛想を尽かしてやる、 そう内心で決意しながら帰宅した三蔵を迎えたのは、窓から漏れる灯りだった。
「・・・ただいま・・・」
ドアを開け、ぼそりと、小さいながらも紡ぎ出される声を悟浄は確かに聞き取った。
「三蔵、あの・・・これ」
「八戒からだ」
両手で持った箱を差し出す悟浄と、手に提げた包みを無愛想に差し出す三蔵と。
互いに「?」と顔に描いてから手にしたものを交換する。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ごそごそ。
「・・・何だこれは・・・」
「あの、三蔵の好きな店の・・・え、これ?」
「だから、八戒が・・・」
「へええ。揚げモンて面倒くさくて自分じゃ作らねえから助かるな」
「そうかよ・・・で、何で5匹も買ってきやがる」
買った時は暖かかったであろうその箱の中身は、今はすっかり冷め切った。
「尻尾まであんこたっぷり」がウリの老舗の鯛焼きだった。
「3匹は俺が喰うとして、てめえは甘いモンは好きじゃねえだろうが。せいぜい喰っても一匹が限度だろう」
「うー・・・。残ったら明日喰えば良いじゃん」
3匹も普通は一気喰いしねえって!との突っ込みを呑み込んで悟浄は妥協案を捻出する。
「随分安上がりについたモンだ」
冷めた鯛焼きに無造作にかぶりつきながら三蔵が言い捨てる。
「え?何・・・」
「誕生日」
「・・・っでー!俺は指輪贈ったじゃん・・・イヤその・・・スミマセンでした・・・」
悟浄の威勢の良い抗議の言葉は、三蔵の一睨みで語尾が小さく消えて行く。
「フン。持ってんだろうな」
「え」
「アレだ、アレ」
鯛焼きを持つ手とは反対の掌を三蔵が催促するように苛々と悟浄に差し出せば、合点が行ったのか、 悟浄が凝りもせず未だジーンズの尻ポケットに入れておいた指輪を取り出す。
「・・・ハイ」
「・・・フン」
手の平に落とされたソレを三蔵はぎゅ、と一掴みし。
残りの鯛焼きをもごもごと口の中に収める。
「手ぇ出せ」
「・・・・・・何?」
「こんなゲンの悪いモンいるか」
言いながら、三蔵は手の中の指輪を悟浄の指に無理矢理嵌めて行く。
「ってー!!コレあんたに合わせたサイズだから無理だって!」
「うるせえ。てめえが嵌めてやがれ」
「イテイテイテー!!抜けなくなったらどうしてくれんだッ!つうかマジ抜けねえ!!」
涙ながらに悟浄がさするのは、左手の薬指だったとかなんとか。

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タイトルはNINE INCH NAILSより。

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