ringfinger 3
部屋の扉が開いた時も三蔵は眠ってなどいなかったが、
侵入者でもない限り室内に入って来るのは同じ家に暮らしている悟浄に決まっているので三蔵は寝ている振りを続けた。「三蔵・・・?」
灯りを点ける事もない侭呼び掛ける声は然し眠っているのならば起こさないように、との気遣いを含む小さなものだった。 三蔵が答えずにいると気配が室内にするりと入り込んで来る。 悟浄に背中を向ける形で丸くなっていても、悟浄が寝台の前で足を止めた事が三蔵には分かった。
「・・・・・・」
無言で伸ばされた手が毛布を捲り上げたかと思うと、次の瞬間悟浄の体躯が寝台に無理矢理乗り上げて来る。
「・・・やめろ」
「何もしないから。一緒に寝るだけ。つうかやっぱ起きてたんじゃん。ハイ、詰めて詰めて」
悟浄は膝で三蔵の足を押して強引に自分の入る場所を作る。
「・・・てめえな」
むっとしながら三蔵は肩に力を入れて躯を反転させ、既にちゃっかりと全身を寝台に収め切った悟浄に向かい合う。
「マジで何もしないって。あんた、疲れてるでしょ?」
だったら一人で寝かせてろ、そう言おうと口を開くより先に三蔵のものより体温の高い悟浄の掌が額に当てられる。
「熱はないみたいだな」
「何・・・」
再び三蔵の言葉を遮るように悟浄の両手が三蔵の頬を包む。
「具合悪そうだったから、心配した」
そう言って悟浄はこつんと自分の額を三蔵の額に擦り寄せる。
「・・・・・・別に」
「そんな事言って、三蔵の『別に』は信用出来ねえからな」
何が面白いのかくく、と小さく笑って悟浄は肩を揺らす。
「何処も悪くねえよ」
「なら良いけど」
もし、具合が悪いように見えるとしたらそれはお前の所為だ。
お前が、指輪なんか贈るから。
悟浄の目聡さを腹立たしく思いながらそう考えると三蔵は胃にチリと不快な痛みを感じる。
何もしないとの言葉通り、悟浄は口付ける事すらせずただ三蔵の痩躯をその筋肉質な腕の中に収める。
悟浄の腕に抱き込まれると三蔵の胃の痛みは先程より強いものとなった。
自分は悟浄にこんな風に優しさを与えられるに値しないと、優しくされるだけの価値もない人間なのだと三蔵は密かに自分を詰る。
眠かったからとか、寝惚けていたからとか、言い訳は何度も脳裏を過ぎった。
「お疲れでしょうし、明日も早いですから」
疲れているだろうとの言葉に意固地になった訳ではなかった。
別段目出度いものだと思っている訳でもない自分の生誕日を祝うムード一色になっている寺にいるのが苦痛だった。 例年ならばそれでも他に行く場所もない三蔵は苦行のようなものだと思って割り切って耐えていた。
だが今は違う。僅かばかりの時間でも、逃げ出す先があった。
「もう遅い時間ですし」と寺の坊主が引き留めるのを振り切って夜道を戻った、その結果がこれだ。 掛けられた言葉を切り捨てた自分が引き起こした事態だと分かっていた。
例え悟浄が相手と雖も誕生日を祝われる事が嫌いだった、それは事実だ。だからと言ってワザと失くした訳ではない、それも事実だ。
だが自分が粗末に扱ったから見付からなくなった、それも事実だった。
これからも悟浄の優しさに触れる度に劣等感に苛まされ痛みを感じる位であれば痛みは長引かせない方が良い。
目を閉じて三蔵は静かに決意する。
自分の冷たさに悟浄が呆れるか、怒るか、傷付くか。
怒ってくれれば良いと、三蔵は思う。
詰られ、終わりを告げられる事があったとしても黙って受け入れようと思う。
目の前の優しい男が傷付く顔を見たくはなかった。辛い顔をさせる位であれば自分を嫌ってくれれば良いと覚悟して、 名残を惜しむかのように悟浄の身体に両腕を回しそっと身を寄せて、悟浄の肩口に顔を埋めて三蔵は真実を告げようと決意する。
「・・・ゴメン、探してたんだ?俺が持ってる」
そんな悟浄の台詞に「死んじまえこのクソ河童アアア!!」の罵声と共に夜の静寂に銃声が響き渡るまで、あと3分。