swept over おまけ
淫らな欲望を風呂場のタイルの上に撒き散らし、シャワーの水でわざとらしい程綺麗にソコと、欲望の出所を洗い流した後、 タオルで髪をがしがしと拭いながら呼び掛ける。
「おーい、空いたぞー」
「う」
「う?」
キッチンの方から聞こえて来たくぐもった返事に思わず眉根を寄せる。
「お待たせ」
「ああ」
キッチンに足を踏み入れてみれば、 冷蔵庫に近い位置にある椅子の背に寄り掛かりだらしなく脚を組んで座っている三蔵は水色のアイスを銜えていた。 さっきは喰いながら返事したんだな。
「アイス喰ってる」
「まだあるから喰いたきゃ喰え」
見れば分かる事をそのまんま口にしてみると、俺の方を見もしない侭そう言われた。
「んじゃ俺も喰おうかな」
かぱりと冷凍庫の扉を開けて三蔵の喰っているのと同じものらしきアイスの袋を取り出す。 本当は甘いモンはそれ程好きじゃないが味はともかく冷え冷えのその魅力には抗い難い。


一つの椅子に背中をくっつけ合って座りしゃくしゃくと無言でアイスを貪る事暫し。
「ん?」
残り少なくなったアイスの棒を口から離してしげしげと眺めてみる。
そしてぽつりと呟く。
「当たりだ」
「あ?」
俺の手にした木の棒に、茶色い焼き印で「あたり」の文字が刻まれていた。
独り言のような言葉に肩越しに振り返った三蔵が「ナニ言ってんだ」と言わない処を見ると俺の幻覚でもないらしい。
立ち上がり、先程ゴミ箱に突っ込んでしまったアイスの袋を腰を屈めて拾い出して見れば、 確かにパッケージには「当たりが出たらもう一本」の文字があった。
「へー、当たりって本当にあったんだ」
「ああ?」
「俺、こーゆーのって今迄一度も当たった事ねえんだよな。 「当たり付き」って書いてあっても本当は当たりなんて入ってねえんだと思ってた」
「んな訳ねえだろ」
けど、本当に当たりってあったんだなあ、と再び口にして残りのアイスを咀嚼してから人生初の「当たり」の文字を感慨深く眺める。 余所見したら「当たり」の文字が消えてしまうのではないかと、そんな気がして目が離せない。
大体俺、年末ジャンボ買っても300円しか当たった事ないし。バラで買うと1枚も当たんねえし。 年賀状の切手シートだって生まれてこのかた一枚だって当たった事ねえし。
信じらんねえ。俺が有名人ならドッキリを疑う所だ。
かと言ってアイスの当たりなんて三蔵に仕込める筈ないし、三蔵が仕組んだ事でもないだろう。 大体そんなの仕組んだって三蔵に何のメリットもない。
どうやら間違いではないんだな、と漸く確信の持てた所で口を開く。
「でもこーゆーのっていい大人が「当たりが出ました!」って持ってくのって恥ずかしくねえ?」
「知るか」
「大体これってさ、買った店に持ってかなきゃいけないのかな、それとも何処でも良いのかな」
「知らねえよ」
「ね、」
どうでも良さそうな三蔵に顔を寄せ、耳元で囁く。
「当たりが出たら「もう一回」?」
三蔵の返答は、俺の足を力一杯踏んづけて立ち上がり、無言でキッチンを出て行くと言うものだった。
戻る

novel−パラレル