tell a tell 2
長きに亘る沈黙の後、俺は煙草のパッケージに指を突っ込みながら黙って立ち上がった。
どうせ男同士だし、と腹を括ったであろう三蔵の男らしい態度とは裏腹に俺の取った行動は男らしくない情けないものであったが、 だって野郎の下着姿なんかマジで見たくねえし。精々気になるのはブリーフ派かトランクス派かっつう事位だが、 そんなのマジで知りたければ直に訊ねれば良いだけで、自分の目で確かめる程の重要事項じゃあない。 勿論そんな事を訊ねても絶対素直に教えてくれる筈はないし、 悪くしたらおかしな趣味でもあるのかと勘繰られ、更に言えば撃ち殺されてしまうだろう。 本当にそんなくだらねえ事を知りたいのであればこれはまさしく千載一遇のチャンスな訳だが、 本当の本当に俺は三蔵の下着姿に興味なんぞなかった。


そんな俺の薄情な態度を責めるでもない三蔵が傷の手当てを済ませた頃を見計らってモップを手に居間に戻る。 床を汚した侭にしておいたら後で八戒が戻って来た時こっぴどく叱られるのは俺に決まっている、 決して闖入者の三蔵の方ではなく。
どうして俺がこんな事、と思いながらも自分で言い出しておいて結局三蔵の怪我の手当をしなかった負い目があるので無言で窓を開け放ち床を拭き清める。 屋外ならばともかく、狭い室内では血の匂いが煙草の煙ではかき消せない程に鼻に付いた。 そして、しこしこと床を拭う俺に「汚して済まない」などと殊勝な事など勿論言いはしない三蔵は、 埃と血で汚れた法衣を再び纏い黙ってソファにふんぞり返っていた。
綺麗好きの八戒のおかげで新しい血の汚れ以外はさしてゴミもくっついて来る事もなかったモップを適当に洗い流してからビール片手に居間に戻った。 プルタブを引き上げるプシ、と言う音に視線だけをこちらに向けた三蔵が「こんな時間から酒か」と顔を顰める。
「ま、いーでしょ。飲みたい時に飲む酒が美味いんだって」
そう言って背中に隠しておいたもう一本を差し出せば、先程文句を言った筈の三蔵は素直にビールの缶を受け取る。
「怪我してんのに酒なんか飲んで大丈夫なの」
意地悪く訊ねれば「酒は飲みたい時に飲むもんなんだろうが」と人の台詞をパクって三蔵はビールに口を付ける。 喉が乾いていたのか、水でも飲む勢いでぐびぐびビールを飲む三蔵に、そう言えば茶の一杯も出していなかった事に気付いた。 八戒だったらコイツが顔を出してすぐに「お茶は如何ですか?それとも何か食べますか?」とか訊ねていただろう。 細かい事に気が付く上に治癒能力まで備えている八戒はちょっとした拾いモンだったな、と感心しながら 「もう一本飲む?」と三蔵に尋ねると短く「ああ」と返事が返って来る。
「はーい、一本いちまんえんです」
「どっかのぼったくりバーか、ここは」
差し出した二本目のビールを、今度はゆっくりと三蔵は飲む。
「・・・八戒が戻って来たらジープで送ってやるよ。その方が早いだろ」
自身も二本目のビールに口を付けながらそう告げる。女の子に言うみてえな台詞だな、と思いながら。 「遅くなったら送ってあげるから、もう一杯飲んじゃえよ」ってノリだ。
「てめえのペットじゃねえだろうが」
人が親切で言ってやってんのにどうしてこうもいちいちコイツは可愛くないのか。



それから30分も経たないうちに帰って来た八戒は「悟浄!」と叫びながら形相を変えてドアを乱暴に開いた。
「よお、おっ帰り〜。そんなに慌ててどうしたよ」
「どうしたじゃありませんよ、何ですか外の血は!」
そーいや家の中の事は考えていたが外の事までは思い付かなかった。 三蔵がやって来た時の有様だと家の外から延々と血痕が続いていたに違いない。うわ、怖え。
「あ、三蔵・・・」
俺が説明するよりも先に椅子に腰掛けている三蔵の存在に気付いた八戒は、薄汚れた法衣を纏っているヤツの姿に事情を察したらしかった。
「怪我してるんですか、三蔵」
「大した傷じゃない」
法衣が泥だらけの血だらけで破れているのでなければ、黙っていれば怪我をしているなどとは到底思えない様子の三蔵が涼しい顔で即答する。 嘘つけ。八戒の治癒をアテにして転がり込んで来たのは何処のどいつだ。
苦痛を表に出しもしない三蔵の頬が僅かに赤らんでいるのは、 血が足りなくなっている為アルコールの周りが早い所為だろうと言うのが俺には分かるのだが。
「あれだけ血を流しておいて大丈夫な訳ないじゃないですか。治療しますから診せてください」
「手当ならもう済ませた」
素直じゃない最高僧様は、そもそも俺の家にやって来るに至ったお目当ての人物が登場したと言うのにわざと治療を拒む素振りを見せる。 何と言うか、気になってる男に対してわざと素っ気ない振りをしてしまう不器用な女のようだ。
「手当したって血が止まった訳じゃないでしょう。ああ、もうビールなんか飲んで・・・。 アルコールは血行を良くするから怪我してる時に飲んだら駄目ですってば」
テーブルの上に出しっ放しになっている複数の空き缶をきっ、と睨み付け、 未だ手にした侭だった買い物袋をせかせかと椅子の上に置いて、八戒は「さあ、見せてください」と宣言した。
「・・・・・・チッ」
顔を顰めてから本当に渋々と言った体で、三蔵は法衣の帯を解く。
裂けたジーンズの隙間から覗く血の滲んだ包帯に八戒が悲しげな顔をする。
「あまり、無茶をしないで下さい」
崇拝、と言うのとも違う、宝物にでも触れるような恭しさで八戒が三蔵のジーンズの上から手を翳す。
八戒の掌が僅かに発光するのに、三蔵は傷が塞がった事で痛みも薄れたのだろう、肩の力をふっと抜いた。
実は三蔵サマはお前に治癒して欲しくてウチに来たんだってさ、と告げてやったらさぞ三蔵のヤツは慌てるだろうし、 照れ隠しに怒ってみせるかも知れない。そして八戒はそんな三蔵の怒りをも喜ぶ事だろう。


そんな事を考えながら二人の様子を眺めていると、俯いた侭八戒が口を開く。
「・・・なんだったら僕や悟浄に頼んで頂いて結構ですから」
「うをっ!何で俺も頭数に入ってるかな!」
やっぱり八戒を喜ばせるような事を言うのは、ヤメにしようと。
その時、そう思った。

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「三蔵がオンナだったら〜」とかそんな事ばかり考えているごじょりんが実は結構気持ち悪い。

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