年中無休
「今年の年末はGI3連闘」
などと悟浄が言うものだからつい訊ね返した。有馬記念を翌週に控えた年末近い冬の日。 祭りの前に体力の温存だと言わんばかりに場内はやけに閑散としているがグランプリ迄未だ一週間あると言うのに皆が来週の事を常に脳裏の片隅に留め浮き足立ち、 人口密度の割に妙な熱気に満ちている特殊な雰囲気のその日。
「は?」
「中山大障害、有馬記念、東京大賞典」
場内の熱気が伝染したかの如く何処か夢見がちな浮かれた瞳で悟浄が流れるように口の端に乗せるのはGIレースの名称。 地方競馬である大井競馬場で開催される中央との交流GIまでもが悟浄の年末のスケジュールには組み込まれているらしい。
「・・・行くのか」
「勿論」
「大障害と有馬は土日だが東京大賞典は月曜だろうが」
「休みだよ。俺んとこ金曜で仕事納めだもん」
目を細めてに、と笑い自慢げに振り返るその表情。
「ケッ・・・オイ待て、新年は・・・」
「6日から。毎年金杯一緒に見てるじゃん」
中央競馬の年初めは中山金杯・京都金杯の東西金杯から始まる。 毎年1月5日の開催と決まっているそれは休日だろうと平日だろうと必ず5日に行われるのだ。
そして有馬記念は例年は12月最終週の一週前、 12月20日前後の開催だったのだが今年から勤め人の給料を狙って月の最終週の開催となった。 新年が5日からなのはともかく年の瀬のこの時期、 実家である寺の手伝いがあって大変だと言うのに年末に仕事のある人間の気も知らずこんな開催スケジュールを組まれるのは正直かなり不満だった。
そして年末年始は休みで競馬三昧だとへらへらと言われると思わず目の前の赤い頭を殴り付けたくもなった。
「年初めにぱーっと出ねえかな万券」
「今年が終わってもいねえうちから来年の話かよ」
「それもそうだ」
そう言って悟浄はに、と笑った。普段からよく笑うヤツだが今日は特に浮ついた笑みがその表皮を離れる事が無い。
「でもよ。万が一今年の収支がプラスにならなかった場合31日まで大井で開催あるし」
「莫迦が。それこそ年の最後にオケラだろうが」
「うーん、でもそうなったら1月1日から川崎開催あるし」
「阿呆だな。負け犬だ負け犬」
まあ年末年始に暇を持て余して賭け事三昧でオケラになるのも莫迦の為には良い教訓なのかも知れない。
「ひっで。連呼すんなよ。年末の大勝負で儲けたら奢ってやるぜぇ」
然し悟浄は特に気を悪くした様子も無く煙草の煙をふ、と吐き出した。
「三が日明ける迄呑みに行く暇なんざねえよ」
少しやさぐれた気分でつっけんどんに言うと悟浄は少し考え込んだ。
「あ、そっか・・・じゃ、1日は川崎は行かないで三蔵ンとこの寺に初詣に行くから場所教えてよ」
「来るな」
「いいじゃん別に初詣位。三蔵も何か手伝いしてるんだろ?」
「新年早々てめえの面なんざ見たくねえ」
「ナニナニ?そんなに俺に見られたくないの?巫女さんの格好とかしてんのか?」
即答にもめげずにやにやと笑いながら悟浄がこちらを伺って来る。 わざわざ長身を折って下から覗き込むように顔を近付けて来るのが気に入らない。
「するかっ!」
「じゃ神主?」
「それは神社だっ!」
本格的に阿呆だこいつ、と思いながら新聞を捲る。今日は開催3場のメインレース全てが重賞と言う珍しい日だ。 然し中山、阪神、中京それぞれの11レースの馬柱が新聞紙面のまるっきり違うページに掲載されている為忙しなくあちらこちらとページを捲らなくてはいけない。 中京の馬体重が発表になったので慌ただしくペンで増減を書き写しているとモニタの画面が切り替わり阪神のパドック映像が映し出される。 然しここで慌ててページをひっくり返そうとすると新聞が滅茶苦茶になるので舌打ちして視線はモニタから外さずに新聞のページを切り替える。
「一年の計は元旦にありっつうしなー。1日に三蔵に会ったら良い事あるかもよ?」
同じく悟浄も顔をモニタに向けて軽口を続ける。
「ねえよ」
「阪神牝特はやっぱファインモーションからで良いよな」
「じゃねえのか」
「で、本当はどんな格好すんの」
「しつけえ」
言って、モニタから視線を外し悟浄の方を向く。
「お前イメクラ辺りでおかしなプレイでもしてんのか」
途端、悟浄が盛大に噎せて吸い込みかけていた煙を吹き出した。

変態か・・・。

悟浄の方を見ないようにして長く煙を吐き出す。
「な・・・っ、違・・・、うっ!」
何やら言い訳しようとしていた悟浄だが再度咳き込む。

賭事に手を出したりイメクラ通いだったり忙しいヤツだな・・・。

「俺はっ、別に、イメクラなんて・・・、がはっ」
何やら悟浄が必死に言い訳しているが普通喜んで肯定するヤツはいないだろう。 こいつとは長い付き合いだが今日は思いがけない事を知ってしまった。きっと「巫女さんプレイ〜」とかおかしな事をしているに違いない。 しつこく装束を訊ねていた時ヤツの脳裏には何が飛来していた事だか。 店の女と自分とを重ねて見られていたのではないかと思うと怒りで拳が震えた。
悟浄の丸まった背中を見下ろす自分の眉間に不快な皺が寄るのを自覚しながら俺は券売機に向かい足を踏み出した。




パチンコの続き。

2003.12.21の出来事。
中央(国が主催)、地方(各地方自治体が主催)こだわらなければ競馬は一年中何処かしらで開催してます。 年中無休なのはギャンブラーではありませんお馬さんと関係者です。
書き始めたのは2003年だったのですが結局中山大障害は積雪の為翌年に順延となりGIは2連チャンになりました。 3日連続GIは競馬の神様が赦さなかったと言う事でしょうか。東西金杯は共に万券決着。

真昼の月に続く。

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