携帯電話
オヤスミvvv

寝る前に送ったメール。

早く寝ろ。

「うわ、三蔵まだ起きてんのかよ!?」

それは自分もだが。
夜中の三時。
三蔵は普段メールの着信音はオフにしている筈なので俺のメールで目が覚めた訳ではないと思うが・・・。

まだ火曜(いや、もう水曜か)。早く寝ないと仕事に差し支えるっしょ。


今日の(いや、昨日か)仕事帰り突発的に三蔵に会いに行った。
「調度良いから冷蔵庫の中の賞味期限切れの近いモン片してけ」
「ところてんが酒のツマミかよ」
笑いながら買ってきたビールをテーブルに並べる。
「あんた甘いもん嫌いなのに何でポッキーあんの」
「悟空が忘れてった。スルメは後にとっとけ。日本酒がある」

ビールを飲みながら机に載っていたぶ厚い本を手に取ってみる。
『次の記述のうち正しいものはどれか。
A.保険料の納付を免除された期間について、社会保険庁長官の承認を受け、保険料の全部または一部を追納することができるが、 その場合、承認の日の属する月前10年以内の期間に限られる。
B.社会保険庁長官は、保険料を滞納する者があるときは納付義務者に対して、督促状を・・・』
ぱたり。
「コレ受かると給料上がったりするの?」
「いや」
「資格手当出る?」
「出ない」
「ふぅーん」
三蔵は現在国家資格の勉強中だ。国家試験と言うのは大抵年に一度しかない為落ちると一年待たないと挑戦出来ない。 同系統の資格だと同じ日に試験をぶつけて来る事も多いので今年はアレとアレを受ける!と言うのが不可能な場合もあり、 なかなかに受験者に優しくない。
「ウチは会社奨励の資格取ると報奨金出んのよ」
「そうか」


本棚の本とか触ると絶対嫌がるタイプだと思っていたので初めてこの家に来た時は緊張した。
男の一人暮らしのくせに小綺麗に片付いた部屋。
他人を入れた事の無さそうな敷居の高さ。(その後すぐに悟空がちょくちょく遊びに来ていると知ったのだが)


三蔵の勤務している会社が業務のアウトソーシング化と言う事で選んだ外注先が俺の勤務先だった。
打ち合わせの席で先方の担当者である三蔵に会った。 やけに若いので面倒ごとを押し付けられただけの何も分かってない担当者かと思ったら意外にシステムの事に詳しくて。 それまでのシステムを一から作り上げたのが三蔵だったと後で聞かされた。
その後通勤途中に偶然会う事があって、思いがけず近所に住んでいる事を知り一緒に飲みに行った。
仕事が完納になった後も事ある毎に相談を持ち掛けられた。 名刺交換したのは俺だけじゃなかったのに俺に相談してきたのは単に年齢が近いせいだったのかも知れないが嬉しくて。 仕事には繋がらない話だったが対応していた。・・・もしかして金をかけず便利に使えるヤツ扱いされてたって事か?
ともかくそんな事でメールの遣り取りをしながら何回か飲みに誘った。 ヤマが片付いた時とかぽっかり空いた休日とか。 イヤがられるようになったら誘うのは止めようと思っていたのに何故か三蔵は強引な誘いに乗ってくれて。
数ヶ月経って初めて部屋に上げて貰えた時は嬉しかった。大声で言っても良い。
本っ当に嬉しかった。



「じゃーん。スルメの登場です」
ビールを飲み終わった後、三蔵が宣言していた通り日本酒を出して来たのでスルメを袋から出した。越の寒梅を惜し気もなくコップで飲み合う。
「一升瓶高かったでしょ」
「小瓶はすぐ飲み切るからこれ位で調度良いんだよ」
「・・・ラッパ飲みすんなよ」
「誰がするか」
他愛ない話をしながら杯を重ねるうちに酔いがまわってきたか。
会話の合間に啄むように何度も口付けを交わす。
くすぐったそうに三蔵が少し顔を背けた拍子にほんのり赤く染まった首筋が見えた。
首にかかる金髪を掻き上げうなじを唇でなぞると三蔵の体が小さく震えた。
「ふ・・・」
何時の間にか三蔵は固く目を瞑っていた。閉じられた瞼にも口付けを落とす。
酒瓶を倒さないよう、蓋をしてどかして・・・。

瓶に片腕を伸ばした瞬間電話が鳴った。

二人同時に体をびくりと震わせる。
「三蔵、電話・・・」
「・・・・・・」
頬を赤く染めた侭三蔵が立ち上がり受話器を取る。
「ああ、何だ?」
会話が成立している所を見るとセールス電話ではないようだ。俺は空缶の並ぶテーブルを片付け始めた。


「・・・誰から?」
「悟空だ。今度部活で県大会に出場する事になったそうだ」
「へぇーえ。大したもんだ」
応援に行かなくちゃな、にやりと笑って俺は立ち上がった。
「じゃ、そろそろ帰るわ」
「悟浄」
「また日曜に、な」
済まなさそうな顔をしている三蔵に告げ素早くキスをする。ドアを閉める背中越しに声が聞こえた。
「またな」


約束無しで訪れても、出しっ放しの本を触っても許容して貰えるまでになった。
『またな』
約束の言葉まで貰えるようになった。
それって結構凄い事じゃん?
「続きは107時間後・・・っと」

110時間のお預けからたった3時間減っただけかよ!

自分で言って辛くなってしまったがそれでも幸福を噛みしめつつ駅に向かった。








オヤスミvvv
ハート三つはやり過ぎかと思ったがオレの気持ちって事で。オヤスミさんぞ・・・・・・
チャラララ〜♪
「ちくしょ誰だっ」

早く寝ろ。

思いがけず返って来た返事。

そっちこそ早く寝ろ
もしかしてまだ勉強してた・・・とか。

余計なお世話だ

「何でそーゆー事言うかね・・・」
オレの事考えてて眠れなかった?

死ね。寝る。

「あー、もー何やってんのオレら?」
携帯の画面を見て思わず笑ってしまう。
「オヤスミ三蔵」
液晶にキスしてみよう。誰も見ていないから。

通勤電車からの続き。アホだこの人達・・・。

国家資格持ってても給料上がらない資格手当出ない会社にはモデルが。

ビートルズに続く。

100題