でんせん
三蔵の背中が逃げようとするかのように腕の中弓なりに反る。自分が余裕を無くしているのは知っていた。
打ち付けるように抉るように三蔵の奥深くまで楔を穿ち逃がすまいと細い腰を引き戻す。
言葉にならない声を発しながらも何度目になるのか分からないその行為に三蔵が制止の声を上げる事は無い。
ねえ、どうしよう?
あんたの事が好き。
戯れに、酒の勢いを借りて言った。
「声、出して?」
あんたがセックスなんかこれっぽっちも好きじゃないのは知っている。
触られて勃つのも突き立てられてイクのも人間としての摂理と言うか生理現象であってあんたにとってそれ以上の意味なんか無いのも分かってる。
「誕生日だし」
言い訳がましく言った台詞にあんたが律儀に応えてくれて、死にそうに嬉しい。
「ん・・・ああッ」
律動に合わせ半ば掠れた声が三蔵の濡れた唇から零れ落ちる。その声に煽られて一層深く三蔵の体内を自らの肉で侵す。
「あ・・・ッ、あ・・・」
奥深くを穿たれびくりと躯を跳ね上がらせながらも普段だったらきつく引き結ばれる筈の唇からは殺される事の無い艶っぽい声が尚も零れる。 テクニックも何もかも忘れガキのように抑えきれない気持ちの侭熱い内壁の中へ精を放つ。 自身の熱か三蔵の体内の熱か区別が付かなくなる程熱いそこから離れたくなくて繋がった侭シーツの上に身を投げ出す。
誕生日、なんてガキじゃあるまいし祝って貰っても嬉しくも何とも無い。 色っぽいおネエさんを引っ掛けるのに多少便利だったと言う記憶しか無い。
だからあんたにも何も言わなかった。
・・・あんただって何も教えてくれなかったし。
カレンダーも持たず旅に出た空の下だと言うのに忘れもしないで「お祝いしましょう」なんて言った八戒の方が余程おかしいんだ、 そう思うのに。「おめでとう」の一言も言わないクセにあんたが余りにも居心地悪そうな顔をしてどんどんグラスを空にして行くから。
「ご、じょ・・・っ」
押し返そうとする三蔵の腕が既に大して力が入らなくなっているのを良い事に抱き込んで愛撫を落とす。 あまりにも皮膚が薄いのでその下の骨が皮膚を突き破って飛び出してしまわないのが不思議に思える、その膚。 強く抱き締めれば柔らかさよりも骨のゴツゴツと当たる感触の方が先に来るし腰を打ち付ければ腰骨ががつんとぶち当たってとんでもなく痛い。 ぶつけた処が痣になっているのを見たのは一度や二度では無いし、 何時だったか三蔵自身実は胸元を触られるだけで俺の指の骨が皮膚の下の骨に当たって痛いのだと言っていた。
男にしては華奢なあんたの躰に「細過ぎるから」と言う理由で欲情している俺はおかしいのかも知れない。 あまりにも細くて今にも毀れそうなあんたを愛おしく思っているだけなんだけれど。
そこだけは柔らかい唇を貪れば三蔵の中で勝手にソレは力を取り戻し硬くなって行く。 幾度も突き込まれた三蔵のソコは柔らかく蕩けきっている。 ・・・それでも体内で質量を増すソレにぴくりと反応して三蔵の肩が跳ね上がる。
もう良い加減「止めろボケ」だの「死ね」だの言って良い頃合いじゃねえの? 何であんたこんな風に俺に好き放題されてるの。
「ん・・・ア・・・っ」
眉間に皺を寄せて体の向きを小さく変えて俺の腕の中から抜け出そうとしているくせにまだ「止めろ」とは言って来ない。
どうしよう?
これだけ求めたのにまだ足りない。
もっともっと、あんたが欲しい。
カラダだけでなく言葉だけでなく俺をもっとあんたで満たして?
あんたの中を俺で満たすから。
「は・・・」
幾度目か躯の中に流し込まれる熱い迸りに反応しびくりと躯を震わせた後腕の中で身を捩る三蔵の躰がぐったりと重たくなってきた。 意識を失いかけているらしい。
「ごめんな。無理させて」
躰を離して固く眼を閉じて横たわっている三蔵の乱れた髪を指で梳いてやる。 考えてみればここまで自分のペースで抱いたのは初めての事だった。 最初の頃は三蔵を気遣って抑えていたし、 慣れてきてからは反応の鈍い三蔵の快楽を引き出そうと回数を重ねてみた事はあったが、 一晩で何度抱いても相変わらず三蔵は苦しそうな顔をしていたから何だか申し訳無くてそれきり無理をさせるのは止めた。
だけど今日は。少しでも俺に呼吸を合わせようと必死になって、僅かな快感でも逃さず捕らえようとしてくれていた。 全身で快楽を追い求めようとする、恐らく三蔵にしては初めてであったろう経験。
どうしようも無い程嬉しくて金糸に指を梳き入れながら三蔵を見つめる。
「・・・・・・」
その視線の先、その侭眠りに落ちるかと思った三蔵がゆっくりと眼を開いた。薄く唇を開き何か言いたそうにしている。
「何?」
大きな声を出さなくても聞き取れるよう顔を近付ける。
「・・・風呂入る」
ぼそりと唇から零れたのは睦言では無く、疲労の色濃く滲んだ声で呟いてから三蔵は起き上がった。
「今日はもう寝てろよ」
それでもベッドに留めようとする俺の手を払ってよろよろと三蔵は単衣を引っ掛けて風呂場まで歩いて行った。
キングオブ風呂だよあんた。
呆然と口を開きながら半ば呆れ半ば感心する。
今度八戒と相談して温泉宿にでも寄ってみるか。
そんな事を考えながら煙草を銜えかけて止め、いそいそとベッドから抜け出して風呂場に向かう。
かなり無茶したから体も相当ベタベタで気持ち悪いだろうし潔癖性の三蔵がその侭眠るなんて我慢出来る訳無いのは分かっている。 三蔵が歩いて行った道筋には何やら白いものがぽたぽた垂れている。 朝には乾いて何の染みか分からなくなっているであろう事が救いだ。 そうでなければ明日の朝正気に返った三蔵に撃ち殺されるに違いない。 拭い取りもしないで脚の間から精液を零しながら歩いて行ったのが当の三蔵であったとしても、だ。
体が汗やら何やらでベタついてるのは俺も一緒だから。咎められた時の言い訳を事前に用意して浴室の扉を開いた。
物音に顔を上げた三蔵は、バスタブに座り込み壁に掛けた侭のシャワーから降る湯を頭から浴びていた。
ぼんやりと俺を見返してくる紫色に光る瞳。
白い膚は余す処無く俺の落とした赤い痣だらけになっている。
文句を言われるより早く決して広くはないバスタブに無理矢理ざばざばと身を沈め両腕の自由を奪い口付ける。
「うう・・・っ」
力無く首を振り三蔵が唇から逃れようとする。
「ごめん。何もしないから一緒に風呂入らせて」
押さえた両腕を解放し頬を包み込むように手を添えて話し掛けると三蔵が小さく頷いて承諾の意を伝えて来た。 素直過ぎていっそ不気味な程だが「ふざけんな。出てけ」と一騒動起こすのも面倒な程疲れているのだろう。
なるほど、ここまでヤっちゃえば大人しくなる訳か。
それ程頻繁に三蔵が疲れ切る程抱く訳にもいかないが良い事を知った。
狭いバスタブの中身をぴったり寄せ合って座る。お互い自由に座る程の広さは無いので膝の上に三蔵を抱え上げ、 向かい合わせで座らせられた三蔵は脚を割り開く体勢になっている。 「何もしない」とは言ったがこの体勢で向き合ってぐったりと頭を俺の胸に凭れかけさせている三蔵の姿が視界に入るのは少し辛い。
頬を両手で挟んで顔を上げさせようとすると拒むかのように重く項垂れているばかりで三蔵は顔を上げない。
「ねえ、さんぞ?」
少し力を強めて無理矢理上を向かせてみると・・・三蔵は半ば眠りに落ちていた。 俺が一緒じゃなかったら風呂で溺れてたんじゃないのかこいつ。
「待て。寝るなっ」
「・・・・・・ああ」
呼び掛けると薄く目を開いてぼんやり返事したが手を離したら水面に顔を突っ込んでマジに溺れてしまいそうだ。
「その侭じっとしてろよ」
そう言って自分の肩に三蔵の頭を凭れ掛けさせてやり、三蔵の脚の間に指を宛う。
「・・・っ」
流石にびくりと肩を跳ね上がらせて三蔵が身体を離そうとする。
「違うって。流してないでしょ。ココ」
柔らかくほぐれた侭の三蔵のそこに指を差し込み中の物を洗い出してやると指の動きに合わせて身体を震わせはするが三蔵は大人しくされるが侭になっていた。
「・・・・・・」
色っぽい声の一つも漏らした訳では無かったが三蔵の項が仄紅く染まり始めているのが視界に入る。
指で感じてくれちゃってるのかね?
悪戯を仕掛けるような気持ちで首の綺麗なラインにぺろりと舌を這わせると大袈裟に三蔵の肩が跳ね上がり顔を上げた三蔵の後頭部が俺の額と激突した。 差し入れていた指が動いた拍子に抜ける。
「ぎゃっ!」
後ろ頭だから三蔵はそれ程痛くなかっただろうがこっちは油断してた処に喰らった頭突きだけに痛い。
「あたた・・・舌噛んだ」
「自業自得だ。ザマみろ」
先刻迄眠そうにとろんとしてたクセに憎まれ口きく時だけはしゃっきとしてるってどーゆーコトよ?
痛む舌を口から出して冷ましながら内心で突っ込む。
三蔵はそんな俺に目もくれず湯船から立ち上がり浴室から出て行ってしまった。
出しっ放しだったシャワーを止めて三蔵の後を追って風呂場から出て見ると洗面所には既に三蔵の姿は無かった。 適当に身体を拭いて風呂の片付けをしてから部屋に戻ると案の定三蔵はさっさとベッドにもぐり込んでいた。
「三蔵?おーい」
シーツの隙間から覗く金髪に手を当ててみれば乾かした形跡は勿論無く。
「乾かさないで寝ると風邪引くぞ」
「・・・・・・」
無視を決め込む三蔵の為に洗面所からドライヤーを持って来て室内のコンセントに差し込んでみたがベッドまでは風が届きそうにない。
「ドライヤー届かないからちょっとこっち来て」
「・・・うるせえ」
「乾かさないと風邪ひくって。ホラ」
シーツを捲り上げて肩を揺さぶると渋々三蔵はベッドの上に身を起こした。
「濡れた侭寝ると寝癖ついちゃって大変だしね・・・コラコラ寝るんじゃないって」
「・・・もう良い」
「もーちょっとな」
三蔵は大雑把なので自分でドライヤーをかける時は半乾きの状態までしか乾かさない。 だから朝寝癖を直すのが大変な時もあるのだがそれでもきちんと乾かすつもりは無いらしい。
湿っていた金糸がドライヤーの温風に靡くようになったのを指を絡めて確認する。
「ハイあがり」
「・・・・・・」
無言の侭ノロノロと立ち上がり三蔵は再びベッドの中の人となった。
「ちょっとそっち詰めて」
追いかけて行って同じベッドに無理矢理潜り込む。
「狭い。暑苦しい。来んな」
イヤだからあんたなんだって文句だけはハキハキ言えんの。先刻まであんなに眠そうにしてたクセに。 呆れて小さく苦笑すると睨まれた。
「何だ」
「んー?こうやってさ、一緒に寝るのって良いでしょ」
そう言うと三蔵はイヤそうに顔を歪めた。
「朝一番に三蔵の顔が見られんだもん」
「寝起きに河童の顔なんざ見たくねえ」
「本当?」
言いながら三蔵の頬を両手で包んで口付ける。
「当たり前だ」
「本当かなー?」
音を立てる事もない程小さく、啄むように。
「本当だって、言って・・・」
秘め事を告げるかのような小さな声でぼそぼそと発される三蔵の言葉を遮るように何度も唇に触れる。 まだ強がりを言う三蔵は然し既に瞼を閉じている。この体勢で寝たら朝一番でお互いの顔を見る事になると分かっているのに。
瞳を閉じた三蔵を眺めつつ尚も口付けるうちにとろとろと。
三蔵の眠気が伝染したかのように。
額を付き合わせた侭急速に意識が遠くなって行った。
互いを互いの体温で満たすうちに意識の境界線が無くなって来たのかも・・・知れない。
この侭眠って目覚めたら三蔵にも寝起きに互いの顔を見る幸福感が伝染っていると良いなと思いながら眠りに落ちる。
腕の中に肌に三蔵の体温を感じながら明日の朝一番で見る愛しい人の寝顔を脳裏に思い浮かべて一人、微笑った。