コインロッカー
だってイヤじゃねえか。開けたら赤ん坊が入ってそうな気がして。


「・・・ナニ言ってんの」
呆れたように言い悟浄が小銭を投入口に入れる。
チャリン。
小さな音を立てて飲み込まれて行く100円玉。大きい荷物だとコインが3枚。

一人だったら絶対近付かなかった場所。
何とも思っていないつもりだったが単に今迄近寄らないでいたから大丈夫だったというだけの事らしい。
胸が冷えていく。


俺は100円分の値打ちも無く、施錠さえされず放置されていたそうだ。

自分が、この、駅によく設置されている荷物預けのハコに捨てられていた事を、最初養父は教えてくれなかった。
然し何処にでも噂好きのヤツはいるもので。
投げ付けられた言葉に図書館で古い新聞を漁って調べて見た物好きもここに一人。


『誰かに呼ばれたような気がしたんですよ』
手荷物を持ってもいなかったのに何故か足を引かれたのだと、告げられた。
鍵が掛かっていなかったのだと言う。
だから扉を開ける事が出来たのだと。
『きっとすぐに見付けて欲しかったのでしょうね』
施錠されて放置された荷物はどうなるか。 丸一日経過しても放置されていると強制的に開錠されるそうだ。
数時間も経てば恐らく赤ん坊は泣き出すので、丸一日待たなくても大抵の捨て子は鳴き声を聞き付けた人物の通報で救出される。
生きた状態で赤子を発見させるつもりが無い場合。簡単だ。殺してから置き去りにすれば良い。
勿論養父はそんな事一言も言わなかったけれど。


生きて発見されただけマシだと言う事は分かっている。
捨てられていなかったら、殺されていたら養父に出会う事も無かったのだ。



次々に人が立ち替わり荷物を預けて行く。また一人。
憶えてもいない筈なのに扉が閉められて徐々に光源を失う箱の中の光景を思う。
『バタンッ』
絶望的な音が響くのと同時に光が消える。

何故あの女は振り返りもせず足早に去って行くのだろう。あの大きな荷物。柔らかい風呂敷に覆われた包みの中は何が



「・・・さんぞー?」
至近距離で顔を覗き込まれて我に返る。
「あ・・・」
ゆっくり息を吐き出す。ずっとロッカーを眺めていた気がしたが何時の間にか悟浄の姿に阻まれて鼠色の鉄の塊は見えなくなっていた。
頭がぼうっとしている。
「具合、悪い?」
悟浄が指を握って来る。
「指、すげー冷たくなってる」
驚いて両手で掌を挟み込んで来るその体温が暖かくて安心する。
ずっと握っていて。
手を離さないで。
それだけの事が、胸に冷たい何かがつかえていて言葉に出来ない。
「取りに来るよな?」
「あ?」
「預けた、荷物」
「ああ」
「来なかったらただじゃおかねえぞ」
「当たり前でショ」
「本当だな?」
「ホントです」
握られた手に力を入れると更に力強く握り返された。



その手が温かくて

泣き出してしまいたかった。

電光掲示板の続き

ああ、ええと。標題見た時コインロッカーベイビーしか思い付きませんでした。こんな弱い人じゃないの分かってますけど。 ただ、この人が表に出さないイタイという感情を敢えて表に出すとこれ位かな、と。

プラスチック爆弾に続く

100題