コンビニおにぎり
太陽の日差しは強く地面に黒い影を落としている。
休日出勤してさくっと仕事を片付けたのは昼過ぎの事。
外で飯を食う気にもなれず、そこらで弁当を買って職場に戻って食う気にもなれず。 家に帰ってから食う事にして帰りしなコンビニに寄って昼飯を買った所で三蔵から電話が入った。
『隣から炊き込み飯を貰ったんだが食いに来ないか』
『うっそマジ?これから行く』
二つ返事で飛び付いてコンビニ袋を提げた侭一週間前訪れた三蔵のマンションへ直行した。


正直、もう電話なんて掛かって来ないかと思ってた。




先週、何回目かになる三蔵宅訪問の時。
キスをした。
酔っていたせいではなく。いや、確かに飲んでたし酔ってはいたが。
酔いに任せての軽いふざけたようなキスではなく、しっかり唇を重ねて舌を絡めるディープなヤツ。
最初は確かに酔った勢いだったがつい口付けてしまった。
三蔵は驚いて目を見開いていたが殴られたり拒絶されたり、そういった、こういう場合予想されるリアクションは返って来無かった。 何度も音を立てて啄み、少しずつ深く口付けて行く。 口付けの合間に三蔵の様子をこっそり伺うと固く目を閉じ頬は上気し少し赤くなっていた。 絡めた舌を強く吸えば甘い吐息が零れた。
唇を離さない侭シャツの裾から手を差し入れ肌に指を這わせた・・・所で強く突き飛ばされた。
「あ・・・わ、悪ッ」
みっともなく床に転げさせられ我に返って慌てて謝った。けど。
「オレに、触るな」
女のするような仕草で両腕で体を抱え俺から身を遠避けながら、はっきりそう拒絶された。


『イヤだった?』なんて訊ける訳ない。イヤがられたに決まってる。
・・・でも。じゃあ何で呼ぶの。
呼んでくれる位なら何で拒んだの。

・・・本当はまた声が聞けて。凄く嬉しい。




「お呼ばれに来ましたー」
どうにか。何とも無いような顔をしてドアを開けた。
三蔵の方はそれこそ平然と、表情を作った様子も無い侭上がれと顎をしゃくったので少し胸が痛んだ。
靴を脱ごうと身を屈めればがさがさとコンビニ袋が音を立てたので三蔵が訝しげな視線を向ける。
「あ、コレ昼に食おうと思って買ったんだけど調度三蔵から電話来てさ。持って来ちゃった」
三蔵はちょっと驚いたような顔をして
「・・・そうか」
瞬きをしてからそれだけ呟いた。
「いーのいーの。コンビニ飯より手料理の方が美味いって」
済まないとは言わないけれど申し訳なさそうな三蔵に何を言われもしないのに言い訳をする。



この一週間、あの日の事を思い出す度に三蔵の吐息までもが耳に甦り赤くなったりその後の出来事を思い出しては青くなったりしていた。
後悔しているのかと言えば、俺は・・・別にそんな、適当な気持ちで手を出した訳じゃ無くってなぁ、前から三蔵の事がっ! どうだ知らなかっただろお前参ったかっ!・・・ははは。 床から身を起こした俺に体を微かに震わせて三蔵が後退った事を思い出すと・・・矢張り後悔する。

先週この部屋で自分が何をしたかを思い出さないよう目の前の飯に意識を集中する。 どんぶり茶碗に盛りつけられた炊き込み飯はふっくら炊き上がり美味そうだった。
おいおいメシだけかよ!
とか
これって客用の茶碗か・・・?それとも三蔵はいつもどんぶりで飯食うのか?
とか考えてたら横から菜の花の芥子和えと湯飲みに注がれた緑茶が出された。
「客用の茶碗がそれしか無いんだ。悪いな」
あんたエスパーか。
「もしかして三蔵もどんぶり・・・?」
「誰がんなもん使うかっ!」
恐る恐る訊いたら怒られた。客用の茶碗(どんぶりだが)があると言う事は少なくともここで飯を食うような客が他にもいるって事で、 一客しか無いって事は一人しかいないって事か。
「三蔵は食わねーの?」
「もう食った」
「じゃイタダキマス」
俺が今有難く味わっている飯の出所は隣の部屋に住む若い男だそうだ。 引っ越し蕎麦を貰って以来時々作り過ぎた料理の交換をしているらしい。引っ越し蕎麦とは今時律儀なヤツ。と言うかお前等主婦か。
「三蔵の時はどしたよ。蕎麦」
「・・・配った」
「真面目だねえ」
隣近所に蕎麦を配って歩く三蔵の姿を想像して笑いそうになる。
「こういう事はきちんとしておかないといけないと教わったからな」
へいへい。
きっと育ちが良いのだろう。今時珍しいと言うか周りにいないタイプと言うか。きっと祖父ちゃん子だ。
「三蔵料理自分で作る人なんだ」
「たまにな」
「コレも何かのお返し?」
「海老しんじょ」
「マジ?すげーじゃん。今度作ったら呼んでよ」
言ってしまってからちょっと図々しかったかと思う。
「・・・好きか」
食い物の事を訊かれているのだと分かっていても一瞬どきっとする。
「あ、ああ、海老しんじょ。好きだぜ」
「そうか・・・」
何?作ってくれんの?
「・・・・・・」
おーい?
反応に困っていると三蔵はついと立ち上がりキッチンへ消えて行ってしまった。

もしかして何ともない振りをしているだけで実は三蔵も間を持て余している・・・?
途端、今迄脳裏から追い払うのに成功していた三蔵の唇の感触が甦って来た。
柔らかくて・・・。舌入れたんだよな・・・。貪り吸う口内は自分の物とは違う煙草の味がして。
その時三蔵がキッチンから戻って来たので慌てて飯の残りを掻き込む。
急須を手にしている所を見ると湯飲みの茶が無くなっているのに気が付いてお代わりを煎れていただけらしい。

何だよ・・・。

意識してんのは俺だけか。

ガキじゃあるまいし。
「どうした?」
苦笑していると三蔵が尋ねて来た。
「いーや何でも?ごちそーさん」




少なくともキスは拒まれなかった。向こうからこうして呼んでくれるって事は少しは期待して良いって事だよな?
全然眼中に無いという可能性も否定出来ないが。


昼食のつもりが夕食になった時間の経ったコンビニ飯は味気無く。 今迄美味いと思っていたシーマヨは当分買う気がしそうも無かった。

熱海の続き
海老しんじょ買うと高いしそもそも滅多に市販してないし売ってても自分の食べたいのと何か違うし作るの面倒だし。 そんな訳で八戒さん登場。ほのぼの。

電光掲示板に続く

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