「三蔵がこの家に来た時からやり直し、しよう」
長安へ、俺達の家へと二人で戻って来た時そう宣言した。
三蔵が居ない間のこの家は何だか暗く沈んだ鼠色をしているように見えた。 だから家には寄り付かず外をフラフラして、いつも三蔵が帰ってくる時間に合わせて家に戻って来ていた。 だけど其処には三蔵が居なくて、広い筈のない賃貸の家がヤケにだだっ広く寒々しく見えた。 当たり前だ、だってこの家は三蔵と一緒に住むつもりで、本人がイヤだと言っても何時か、一緒に住んでくれたら良いなと、 そういうつもりで借りた家だ。照らし出す光も無い侭快適に暮らせる筈も無かった。


行かなくては、と思った。
三蔵が居なくなった家で迎えた7回目の朝の後。
寺迄行って門前払いを喰らったのでこっそり忍び込んで顔見知りの三蔵附きの小坊主に三蔵が未だ帰って来ていない事を聞き出した。
その足で店迄行って寝ていたマスターを叩き起こして詫びながら、 それ迄は休みをくれと言うつもりだったのに気が付いたら仕事を辞めると告げていた。 そりゃまた随分急だ、とぽかんと口を開けるマスターに恋人が家出したと、 そんで最近全然顔を合わせて無かったとしどろもどろに説明したら「頑張れよ」そして「今度はその恋人と一緒に客として来い」 と送り出された。クソ、格好良いじゃねえか。
だけど行かなくてはと、思った。
行かなくてはと、そればかりを繰り返し長安を後にした。


身一つで出て行った三蔵と(葬式の為の身支度は寺から持ち出して、葬式の済んだ後は坊主に持たせて先に戻したそうだ) 身一つで三蔵を追いかけて行った俺と。 二人共あの天竺への旅の間とは違い旅装を解く必要も無い程の軽装で長安を離れていた。 三蔵はこんな身軽でフイと消えてしまう事もあるんだと知った。
離さないように離れないようにやり直そう。二人で。





「やり直すって何をだ」
ばさりと法衣を脱ぎ捨てながら三蔵が不審そうに尋ねる。
「んーとさ。例えば俺達こんな風に喧嘩したの久し振りだったでしょ? 以前はあんなに顔付き合わせる度に喧嘩してたのに」
「・・・てめえが怒らせるような事ばっかり言うからじゃねえか」
「だからさ。顔合わせる時間が殆ど無かった所為もあるけど、あんた俺に対して怒らなくなってたでしょ? 言いたい事とか全部呑み込んじゃって一人で抱えてた訳じゃん。・・・なんかそんなのあんたに似合わねえ」
ブチ切れて銃を乱射しているだけでは無く穏やかな面もあるのだと、旅の間に知るようにはなっていたが。 穏やかなのと思っている事を口にしないのは絶対に違う。
「すると何か?お前はいつもハリセンと銃の餌食になってるのが性に合うと、そういう事か?」
「何でそうなんの」
「お望みなら何時でもぶん殴ってやるが」
可愛くねえの、とは思うがこっちの方が三蔵らしいと思ってしまう辺りイカれてる。
「・・・遠慮しときマス」
そう言って抱き締めて唇を掠め取る。
沢山キスして沢山触れあってそして沢山会話をしよう。
とす、とベッドにその身体を突き倒すと慌てたように三蔵が身を捩る。
「待て、まだ・・・」
日が高いと、そう言いたいのだろう。
「こうしちまえば暗くなるでしょ」
手を伸ばして窓際のカーテンを隙間無く閉め切る。そうする間も逃がさないよう片手は細い腰に回した侭。 細い・・・細い事は細いが前からこんなもんだったよ・・・な?
「昼日中からカーテンが閉めてあったらおかしいだろうがっ」
「皆ヒトん家なんか気にしてねえって」
煩い口は塞いでしまおう。角度を変えてしつこい位に唇を貪って頬を両手で挟み込む。 別に八戒の言っていたようにやつれてはいない気がする。安心して髪に指を絡めて何度も撫で上げる。
「う、ん・・・」
一昨日散々抱いたばかりだから感じ易くなっているのか三蔵はキスだけで息が上がって来たらしい。 白い頬を紅潮させて既に躯を弛緩させている。薄く開いた唾液でぬるついた赤い唇が艶めかしい。
カーテンを閉めていても室内に侵入して来る薄明かりに金糸が発光しているかのように仄かに煌めいている。
やっぱり三蔵がいると家の中が何だか明るく見える。
沢山会話をしようと言ったのは自分だが、その言葉は三蔵には告げず額に口付けてから服を脱がせ始めた。









ぐしゃぐしゃと、自分で注ぎ込んだものが俺が突き入れるのに合わせて三蔵の中から溢れ出す。 キツい筈のそこはとろとろに蕩けきっていてその熱さが気持ち良い。
「も・・・うっ、」
切れ切れに言いながら三蔵が俺の方に腕を伸ばして来る。ハイハイ、悟浄さんの肩はここですよ。
「何?もうイキたい?」
「バカ、もう止めろ・・・」
俺に縋り付いて来るのかと思った腕は肩を押し返そうとしてきた。 いつもは背中に、肩に、痕が残る程ぎりぎりと爪を立ててくるクセに。
「冗談。夜はまだまだこれからっしょ」
「ふざけんな・・・てめ、何時からヤってると・・・」
二人して部屋に籠もったのは日の高い時間だと恥ずかしがる三蔵の為にカーテンを引いても室内が仄明るく照らし出される時間だった筈だが何時の間にか日も暮れて ・・・と言うかはっきりきっぱり夜と言って良い時間となっていた。 奥深くを掠めると色っぽい表情をするものの確かに三蔵の頬は疲労の為か既に紅潮していない。 その顔を見てしまったら気を付けてやれと言っていた八戒の言葉も気になってきた。 いや然しこないだ八戒がそう言った時は三蔵に無理させた後って訳じゃなかったぞ。 そうだきっと寺の坊主共が散々仕事を押し付けていたに違いない。 身に覚えがある程抱き合う時間があったならそもそも先日のような感情の行き違いも無かっただろう。
「ちょっと我慢しろよ」
「な・・・?」
三蔵の躯をひっくり返して四つん這いにさせる。楔が乱暴な動きに緩み、 それから腰を突き出させると溢れ出した白濁したものが三蔵の両脚を伝い零れ始めた。
「止め、ろ」
三蔵は後ろから抱かれるのがあまり好きじゃ無い。恥ずかしいのか枕にぼすんと顔を埋めた。そんな事したら窒息しちゃうって。
それでも逃げようとしないのを了承の合図と受け取って頽れそうになる脚を腰を掴んで支え後ろから犯し始める。
「う、う・・・」
俺の動きに合わせて揺れる背中は傷一つない、 と言う訳にはいかず一際目を引く肩胛骨沿いに走る大きな刀傷を筆頭に幾つもの傷跡が残っている。 だが骨の上に乗る薄い皮膚と細い腰の縊れへと繋がっていく緩やかなカーブを描くラインは大層色っぽい。 ぺろりと骨の上に舌を這わせると大袈裟に背中がしなった。 前に手を回してみれば止めろと言った割に三蔵のそれはちゃんと固く勃ち上がっていた。
「まだイケるよな?」
「・・・・・・っ」
声もたてずふるふると頚を振るのに構わず三蔵のそれに指を絡めながら大きく突き入れる。 表情が見えないのが残念だと思いながら吐き出すのを堪えて抜き挿しを繰り返す。 この体勢が好きじゃない三蔵は早く終えて欲しいと思っているだろうがわざと微妙にポイントをずらしてゆっくり動く。
歯を食いしばっているのか唇を噛み締めているのかその表情を伺い知る事の出来ない三蔵からは押し殺した息使いしか聞こえて来ない。 三蔵が声を立てないので脚の間のぐちゃぐちゃ言う音だけが聞こえてきて却って室内に淫靡な空気が漂う。 この間抱いた時は声を殺したらダメだと言ったら素直にイイ声を聞かせてくれたのに、声を出してとその度毎に言わないとまだダメなのかなあ、 でもこれはこれでえっちくさくてイイカンジvと思いながら唐突に乱暴な動きで奥の方を狙って腰を使う。
「っ、ん、・・・っ」
突然与えられた刺激に痙攣するように白い背中が大きくしなるのと同時に俺自身もびくびくと震え三蔵の中に熱い飛沫を注ぎ入れた。



俺自身を抜き去ると三蔵はベッドの上に頽れるように身を横たえ次いで気怠げにゆっくりと仰向けに寝転がり直した。 ぐったりと目を閉じて呼吸を整えているのにそっと手を伸ばして汗で額に張り付いた髪を指で掬い取る。
「もっと沢山会話して、そんでもっと沢山喧嘩しような」
そう告げるとぴくりと眉を持ち上げて目を開いた。紅い唇が少しずつ艶めかしく開く。
「・・・莫迦かてめえ」
其処から零れたのは睦言ではなくて。
掠れた声で、そう言われた。
本当に可愛くない。






還るべき場所の続き。

舌打ちに続く。



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