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絆
あの天竺への旅の間には、何度か死にかけるような目にも遭ったし体調を崩して気弱になった処を看病されてみたり本気で怒鳴り合ったり (他の仲間達はともかくこれは自分には非常に珍しい事だった) 時に取り乱しみっともない姿を晒しまた仲間の同様な姿を目にし毎日寝起きを共にし(寝惚けた三蔵が夜中に魔戒天浄を発動させた時は死ぬかと思ったものだ)、 つまり普段だったら絶対披露しないしお目にかかれない姿を晒し晒されると言う一言で言ってしまえばディープなものだった。 そしてその決して愉快で楽しかっただけとは言い難い濃ゆい旅の仲間達とディープでコアな関係に至る、と言うのはお約束と言うか、 あの上に超が付く程個性的と言うと聞こえは良いが我が儘なメンツでよくぞ無事に旅を終えられたと感心する気持ちの方が大きいので定番の 「永遠の親友(と書いて『とも』と読む)だとか絆とかは正直どうでも良かった。 尤も本当にどうでも良いと思っているのなら長安へ越した際に一人暮らしを始めていただろうとは思う。 家賃を折半する為と言い訳も出来るがそれだけでは悟空を次の同居の相手に選んだ理由にはならないと言う事は自分でも分かっている。 そして、旅の間に悟浄と三蔵が築き上げたのは、 僕と悟浄、或いは三蔵と悟空の間にあったものとは違う種類の深い結び付きだった。 旅の最中から、旅から戻ったら長安辺りで仕事を見付けようと思うようになっていた。 何故それまで住んでいた処ではなくて長安かと言うと、どんな仕事に就こうかと色々考えたのだが結局、 以前と同じく教師か或いは講師か、とにかく子供達に勉強を教える仕事が良いと思ったからだ。 食べていける位の収入が得られる、 つまり教育熱心且つそこそこの人口で職にあぶれる心配が無い土地と言う事で長安を選んだ。 現在の職場は小学校のように一人で全教科教えるタイプではなく、 カリキュラム制で教える担当教科が決まっている。 ゆくゆくは上級官僚を目指して行こうと言う子供達も多く通う学校なだけに相手が子供だからと言って手抜きをせずきちんと基礎から応用迄を教えていかなくてはいけない。 担当教科以外の時間は空いているのでその時間を使って下調べや授業の準備をするのだ。 ピンポーン 呼び出し音に、開いていた本に栞を挟んでから立ち上がる。 新聞の集金でしょうか、回覧板でしょうか。考えなくても数秒後には答えが分かるのに一応幾つか想像してからドアを開く。 「お待たせしました」 「八戒っ!三蔵来てねえっ?」 「・・・来ていませんが」 久し振り、の筈なのだが。挨拶も抜きにいきなり三蔵の行方を尋ねてきたのは左の頬に青痣をこしらえた悟浄だった。 こんな風に悟浄がやって来たのは一月振りの事だ。 時々仕事帰りにこの家を訪ねて来る三蔵と違い(口には出さないが悟空が気になるのだろう) 悟浄は滅多に此処に脚を運ばない。尤も3年もの間同居していて更に丸2年も一緒に旅をしていた間柄だ、 今更用もないのにふらっと訪ねて来たりする必要を互いに感じていないと言える。 余程の事がない限り家にやって来ない悟浄がやって来るその「余程の時」は三蔵が絡んでいる。 「喧嘩ですか?」 「ちげーよ。・・・いや、多分」 もごもごと横を向いて語尾を濁しながら答える悟浄。間違いなく喧嘩ですね。 「上がっていきませんか?お茶位出しますよ」 この前は食べたい料理があるのに三蔵が作ってくれないと、そんなどうしようもない事で泣きついて来ましたっけねえ・・・。 本当に、旅に出る前の悟浄とはえらい違いです。 女泣かせと言うか、実際は泣かせる事すら無く適当に上手く女性の間をふらふら渡り歩いていたらしい悟浄がこのヘタレぶり。 この盲愛ぶり。 何というか「悟浄、まっしぐら」と言うか。 「どうぞ」 悟浄の口が滑らかになるようにと丁寧に炒れたコーヒーを勧めれば一口飲んで、言いたくないんだけど言いたくてしようがないと、そんな目をしてこちらを伺う。 またどうしようもない理由で来たんだったらタダじゃおきませんよ、思ったが口には出さずにっこり微笑む。 ドリップされたコーヒーにじっくりたっぷり、一滴一滴注がれているのは僕の愛と僕の毒。 口の端が切れてでもいるのか、カップに口を付けてから悟浄は少し顔を歪めた。 ハリセンの続き。 また喧嘩してますよこの人達・・・。 法衣に続く。 33題 |