背中




「三蔵、ご飯食べて行きますか?」
「ああ」
その日仕事帰りに立ち寄った三蔵は、いつもだったら用が済むと適当な所で切り上げて帰るのにTVを見たり新聞を読んだりしてなかなか帰ろうとしなかった。 久し振りの三蔵と一緒の食事に悟空がはしゃいでいるのを見て、 悟空の為にゆっくりしているのかとも思ったが食後のコーヒーを飲み終えても尚三蔵は時計を気にする様子が無かった。


「俺な、職場で麻雀やると結構強いんだぜっ!」
「旅の間散々やりましたからねえ」
悟空が食後のお菓子をほおばりながら得意気に言うのに苦笑して答える。 ビリヤードやルーレットなど、専用の台が無いと出来ないもの以外は旅の間の暇潰しとして悟浄と二人して相当悟空に教え込んだ。 最初は麻雀の役も知らなかった悟空だが麻雀もカードも花札も、 保護者でありそして聖職者である三蔵が悟空にそういった遊びを教え込む事について禁止した事は無かったので。 悟浄はあれで面倒見が良いので散々悟空の事をからかいながらも意外な程辛抱強くあれこれとルールだけでなく手を教えてやっていた。
「んーと、そうじゃなくて、三蔵とか悟浄ってすっげヒネた打ち方するじゃん」
ぴく、と三蔵が反応して眉を上げるのに悟空は気が付かないらしく言葉を続ける。 ヒネた手の中に僕は含まれていないんですね、と悟空に見付からないように微笑む。
「そーゆーのに比べると皆手が素直なんだよな」
「悟浄はそれが仕事ですからね」
賭場ではイカサマも時折交えつつ然し鮮やかとしか言いようのない牌捌きでアガる悟浄と比べると、 実際の処三蔵の方が負けず嫌いな分何が何でも勝ちに行く傾向が強いので勝つ為なら涼しい顔でかなりコスい事をやってのけたものだが。 悟空は悟浄に教わった割に真っ向ストレートに采配を振るって来るが三蔵は一体誰に賭事を教わったのかが気になる処だ。
「なあ三蔵、今度悟浄もいる時にまた4人で麻雀やろうぜ」
「たかが素人相手に少し勝った位で良い気になるんじゃねえよ」
とても聖職者とは思えないような台詞を吐きながらフンと鼻で笑って取り合わない三蔵に、悟空はトランプを持ち出して来た。 しょうがねえなあ、と面倒くさげに言いながら渡されたカードをそれでも三蔵は受け取った。
「あの、そろそろ帰らなくて良いんですか?」
10時を回った頃になってもカードに興じた侭立ち上がる気配の無い三蔵に声を掛けた。
「今日は帰らん」
手札から目を離しもせずに三蔵はそう宣言した。





三蔵の言葉に喜ぶかと思った悟空は、然し戸惑いを見せた。
「三蔵、どうしたんだよ。悟浄と喧嘩でもしたのか?」
そう尋ねられるのに三蔵は素っ気なく「別に」と答えただけだった。
「お客様用の布団が無いんですが・・・」
そう告げたら「サルはソファで寝てりゃ良いだろ」と、自分は悟空のベッドを強奪して眠るつもりなのだと当然の如く答えた。
「えーっ!やだよ俺だってベッドが良いよ!」
「てめえの寝相じゃ何処で寝たって同じだろうが」
「俺のベッドなのにっ!」
「俺は客だぞ」
ぎゃあぎゃあと言い合うのに先程のカードを差し出したらここぞとばかりに見事な集中力を発揮して当たりを引き当てたのは、三蔵だった。
「あっ、じゃあ三蔵が俺のベッド使っても良いから一緒に寝よう!」
当たり前の顔をして指の間で挟んだカードをぴら、と見せつける三蔵にさも名案だとばかりに悟空が提案した。
「てめえ、その台詞は自分の寝相を見てから言え」
三蔵達と初めて遭った頃ならともかく、旅の間に随分背も伸びたと言うのにそんな事を言い出す悟空に三蔵が心底イヤそうに顔を歪めた。




「三蔵、朝は何時に起きるんですか?」
風呂上がりで半乾きの髪をがしがしタオルで拭いている三蔵にそう尋ねた。
「そうだな・・・ここは寺に近いから4時半頃だな。勝手に出て行くからお前は寝てろ」
その言葉にいつもはもっと早くに起きるのかと思いながら壁時計の文字盤を見上げる。大変だ。 そろそろ寝ませないと三蔵の睡眠時間が随分と短くなってしまう。
「いえ、でも」
「飯はその時間に炊けるようにタイマーをセットしておけば適当に喰う。付き合いで起きる必要はない」
「・・・そうですか。じゃあ支度をしておきますね。お休みなさい」
確かにそんな早い時間に起き出すのも実の所大変だし、そんな時間に三蔵を送り出してから寝直すのも具合が悪い。
「八戒」
承諾の意を伝えてくるりと背中を向けると呼び止められた。
「万が一河童が来ても俺は来ていないと言え」
「・・・はい?」
その、言葉には答えず三蔵は悟空の部屋に入って行き振り向きもせずドアを閉めた。






数珠の続き。

旅が終わっても悟空162cm設定の方もおりますが私の処では172cm位。それでも三蔵より小さい。

新聞に続く。



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