ある晴れた日に
錫杖を絡め取られ「げ」と思ったのは一瞬だった。
相手は悟空のような棍棒使いだった。 ああんもうバカ力さん、とか何とか思いながら細い棒っきれにしか見えないが見掛けよりは随分頑丈なその棍棒に絡み付いた侭の鎖を力任せに引こうとするが、 どうやら向こうもそれなりに力があるらしく簡単には力の均衡は破れないようだった。 こんな所で引っ張り合いなんてしてる場合じゃねえっつうの、思った時には別のヤツに背後に回り込まれていた。 敵さんだってこんな好機をただ指銜えて見てる程おバカでもないだろうと思っていたので瞬時に錫杖の持ち手をひっくり返してヘラを跳ね上がらせるとどうやら顎にクリティカルヒットだったらしい、 ざくりと皮膚が割れて血飛沫が吹き上がった。
刃物じゃないからって油断してちゃダメだぜ、と心の中でピースサインを出しながら、 綱引き状態で引き合っていた鎖に掛かるバランスが崩れた事で鎖を引っ張っていた妖怪がたたらを踏む瞬間を見逃さず棍棒に絡んだ鎖を弛めて一気に手元に引き寄せた。


棍棒遣いは一度はエモノを取り落としたが再び棍棒を手にすると俺に向かって走り寄って来た。 ナニよ、何か俺に恨みでもあんの!?と思いながら錫杖の柄で切っ先を交わす。 少しばかりやりにくい相手だった。
接近戦が別段苦手だと言う事はないが身長差があり過ぎた。 悟空よりも尚ちっこいのだ。外見はちゃんと成人のものなので子供っつう訳じゃなく単に背が低いだけなんだろう、 そしてそのリーチの短さを補う為に剣ではなく棍棒を武器にしているい違いない。
対峙しながらそんな事を考えていた所為だろう、一人の相手に手こずり過ぎた。
突如肩の辺りに違和感を覚えた。
「っ!」
俺が振り返るより早く、俺の肩に短剣を投げつけたヤツは三蔵の銃弾に倒れていたが。
「チンタラしてんじゃねえよクソ河童!」
戦闘中に余所見なんかしてちゃ危ねえよ三蔵。
そう思う俺も肩越しに振り返っているんだから人の事は言えない訳だが。
「んじゃま、ケリをつけますか」
振り下ろされる棍棒を錫杖で受けると見せてその侭錫杖を地面に立て、宙へ跳び上がる。 掴んだ侭の錫杖を軸に空中で身体を捻り蹴りを入れる。
「が・・・っ!」
側頭部に蹴りを食らい転倒したソイツに、さてどうやってトドメを刺すかと一瞬考えるが手っ取り早く月刃で胴体を凪ぎ払う事にする。
「おっまたせー」
腹の所で身体が二分されるのを見届けてから振り返るとどうやらコレが最後の敵だったらしく、 仲間達は既に戦闘を終えていた。
「悟浄・・・っ!早く短剣を・・・!」
敵はもういないと言うのに血相を変えた八戒が走り寄って来る。
あ、そっか、まだ肩にこんなもん生やしてたんだわ、俺。短剣男サゴジョーなんつって。
「悟浄ッ!」
無造作に短剣の柄に手を伸ばすと八戒が叫んだ。そか。自分で引っこ抜くと余計に傷口がでかくなるんだ。
「早いとこ引っこ抜いちゃってよ」
「ええ」
言うと、俺の肩に片手を添えてから八戒が短剣を引き抜いた。からん、と固い足場に短剣の刃が当たる音。 それから八戒の掌から暖かい気が流れ込んで来る。
「もう良いですよ」
「さんきゅ、んじゃさっさと出発しようぜ」
片手を上げて謝意を示して先に立って歩き出す。
「あ、はい」
「ホーラ、早くしねえと置いてくぞ小猿ちゃん」
「何だよ、元はと言えば悟浄がモタモタしてっから」
「いーのかよ、急がねえと今日も野宿だぞ?」
「げっ」
ナマイキにも反論しようとした悟空を制して言ってやれば慌ててジープに乗り込んだ。
「なあ、八戒。今日は街に着けるかな?」
「大丈夫だと思いますよ」
「やったー!美味いモン喰えるかなあ」
はしゃぐ悟空を横目に煙草を銜えて頭の後ろで両手を組む。
「これ以上刺客の皆さんがいらっしゃらなければ、ですが」
意地悪く八戒が付け足す。
そう、ここの所大挙して押し掛けて来る刺客の所為で旅程が遅れていた。早く街に着きてえんだよ俺は。 早く街に着いて宿を取って、三蔵と二人きりになりたい。

何故なら三蔵と愛を確かめ合ったばかりなのだ。
好きだと、直接的な言葉で言われた訳ではなかったが。
誰とでも寝る訳ではないと怒気を孕んで告げられた言葉は、つまり、そういう意味だった。
畜生、可愛い事言ってくれちゃって。
ああ、もうたまんねえ。

「悟浄、暴れんなよっ!」
「バカは放っておけ」

そう言ってくれた三蔵の躯を俺の下で直ぐ様拓きたいと思ったが、その時三蔵は背中に盛大に打ち身をこさえていて、 しかもそれに気付かず抱いた後だったのでその日はそれきり我慢したのだ。 それから三蔵の怪我が治るまで待って、もう良いかな、と思った日は4人部屋だった。 それからはうざってえ刺客のお出迎えの為行程が捗らず野宿続きで、今日、漸く久し振りにきちんとした宿屋に辿り着くのだ。

100題「貴方というひと」の続き。

続く

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