あなたのこわさを。
この辺りだけのものなのか、それとも天竺全体の寺がそうなのか。経蔵の書物を遥々東からやって来た高僧に開放してやると言う坊主の好意に甘える形で連日地元の寺院に通っている三蔵が宿に戻って来ると、 いつも法衣には抹香臭い匂いが移っている。慶雲院に通っていた間に嗅ぎ慣れたそれとは少し違う匂いの混じったソレ。
じじ臭い線香の香りとも違う微かに鼻に刺激を与えるその香り。
「何だろうな、ソレ」
法衣の袖を摘み上げて鼻を寄せると既に自分では染み付いた臭いも気にならないのだろう、 大して気にも止めていないらしいのに俺に知れない位僅かにクン、と鼻を鳴らして自らも法衣の匂いを嗅いでみようとする仕草が少し可笑しかった。
「髪にも臭いが移ってんな」
ぱさりと法衣の袖から手を離してカラダを起こして今度は三蔵の髪に鼻を近付ける。
「おい」
「ナニ?」
文句を言う為顔を上げる三蔵に、惚けて尋ね返しながら顔を下に向けて意図したものなのか偶然触れただけなのか分からない位微かに、 素早く額に口付ける。 怒るべきなのか驚くべきなのか三蔵が怯むその隙に今度ははっきりした意図を持ってのものだと分かるように目を閉じてゆっくり顔を近付ける。
抵抗は、無かった。
三蔵の中に全てを注ぎ込んだ後自身を収めた侭で汗まみれの額とチャクラに口付ける。 湿った前髪を指で払うように掻き上げてから鼻先に、それから肉感的な唇に。 ゆったりとした呼吸を繰り返しぼんやりと脱力しきっている三蔵が絡められる舌にひくりと微かに反応すると三蔵の中に収まった侭だった自身もひくりと反応する。
「・・・・・・っ」
ソレに敏感に反応し眉間に皺を寄せて三蔵が身震いする。
ああ、クソ、締め付けたら駄目だって。
繋がった侭の部分が緩く収縮するのに俺のモノは催促されたのだと勘違いしてまた、三蔵の中で脈打つ。
「ば・・・っ、てめえ・・・っ!」
俺の下で三蔵が慌てて唇を離して罵りながら俺の肩を両手で押し戻そうとする。
「動くなって・・・!」
「動くに決まってんだろうが!」
ヘタな動きは却って刺激となり俺を収まりが付かなくさせるだけだと気付いていない三蔵が逃げを打とうとする、 その動作で繋がった部分が擦れるのさえ気持ち良い。
俺を銜え込んだ侭のソコが反応する度に未だ奥深く収められている俺が硬度を増すと漸く気付いたらしい三蔵が、 必死に唇を噛んで声を殺す。
ああ、あんた本当におかしい。
気持ち良いんだったらカラダの言う通りにすりゃあ良いのに。
埋み火のように消えない熱を抱える俺を歓迎するかのように疼き出す自身を、 三蔵自身が耐えられないかのように硬直する、その物馴れていない仕草が物凄く愛おしい。 互いの体温を感じる、これが生きていると言う事だ。
吼登城で大怪我を負って以来、 つい最近まで殆ど寝たきりだった三蔵に無理をさせたくなくて二度目は控えようと思っていたのを俺はあっさりと撤回する。 何事も慣れが必要だとか何とか自分に言い訳しながら。
無駄な脂肪の乗っかっていない脇腹を両手でこしょこしょと擽りながら撫で上げる。 こいつがもっとぶよぶよの腹だったらあの六道に刺された時もあれ程酷い手傷は負わなかっただろうか、とかくだらねえ事を考えながら。
「・・・くすぐってえだろ」
「じゃあココは?」
目を細めて文句を言う三蔵に、俺のモノと同じように腹の上で再び熱を孕み始めているものに指先で触れる。
「・・・・・・っ!」
三蔵の全身がびくり、と震えた。
「あ・・・、っ、ク・・・」
「指、怪我すんぜ」
自らの指を口元に持って行ききつく噛む事で甘ったるい悲鳴を噛み殺そうとするのにその指先を取り上げて歯形の付いたそれに口付ける。 人の背中にばりばり爪を立てる事に遠慮のない三蔵は、自分の身体が傷付く事にも遠慮斟酌がナイ。 くい、と空いた手で細い顎を掴んで上向かせて唇を塞ぐ。
が。
「ぎゃああっ!」
噛んだ!舌に噛み付きやがったコイツ!
「っ!ナニすんだ!」
「ナニすんだじゃねえだろっ!」
いい加減離れろ、言いながら三蔵が裸足で腹に蹴りを入れて来る。 すげえ締め付けられてキモチイイ、と思う間もなくくっつき合っていた部分が離れた。
途端、脚の間から零れるモノにぎょっとした顔をした三蔵が一瞬、 ソコに視線を遣ろうとして思い止まったように途中で顔を上げ、勢い良くベッドから降りる。
「おい!」
俺が呼ぶのに脚を止めもせず寝間着代わりの単衣を引っ掛けて風呂場に向かいずんずん歩いて行く。 昔は行為の後歩くどころか起き上がる事すら出来なかったのにどうしてこんなに可愛げがなくなっちまったんだろう、 俺はその勇ましい背中に悲しいものさえ覚える。
「なー、三蔵良いじゃん。もう敵襲がある訳でもねえし」
尚も呼び掛けるのに、バタンと乱暴に風呂場のドアが閉められた。
「あ、じゃあさ、一緒に風呂入ろうよ」
立ち直りの早い俺はそんな事にもめげずにベッドから降りて三蔵の歩いたのと同じルートを辿り風呂場のドアの前に立つ。 それから、ウキウキとドアノブに手を掛ける。
がちゃ。
信じらんねえ事に、ドアには鍵が掛けられていた。
「三蔵、ナニもしねえからっ!一緒に入るだけっ!」
と言うのは勿論嘘だが丸っきり嘘だと言う訳でもない。風呂場に入ったら勢いでその侭なだれ込んでしまえ、 と密かに思っていたが然し狭いバスタブにぴったり膝をくっつけ合って向かい合いで「狭い」 とか何とか言いながら一緒に入るっつうのも良いかなー、とも考えてはいたのだ、一応。
べしべしと掌でドアの表面を叩くが返事は無い。
「三蔵、開けてくれよっ!」
「・・・やかましい」
漸く三蔵からの返事があったが俺の期待していた甘い赦しの言葉ではなく、超絶不機嫌な低音だった。
「なあ〜入れてくれよお〜」
ばんばんと音を立てて叩き付ける扉の前で、俺の懇願だけが空しく響く。