熱〜三蔵バージョン
「あつい・・・」
荒い息の下でそう吐き出しながらなんとか悟浄の衣服に指先だけを引っかける。
何故、カラダのあちこちに口付けられているだけでこんなに息が上がっているのだろうかと不思議に思いながら薄く目を開くと、 突如目の前に悟浄の顔が大写しになる。悟浄の吐息を感じながら再び目を閉じると、触れ合ったのは唇ではなくて、 額に柔らかい布がふかりと当たる感触。
「あ」
慌てたように悟浄が自分のバンダナを外し、今度こそぐりぐりと額同士が合わされる。 それが、まかり間違っても愛撫などではない事は如何な俺にでも分かった。これは、ガキ同士のじゃれ合いだ。
「・・・・・・何だ」
「あんた、すげー熱あるじゃん」
「・・・・・・あ?」
「ほら、自分で触ってみろよ」
そう言って俺の手を取る悟浄の声が一際高くなる。
「三蔵、手!」
「・・・だから、何だ」
「手もすっげー熱いじゃねえか!何時から熱があったんだよ!」
「・・・・・・ああ?」
言われる侭にぺたりと手の平を自らの額に当ててみるが良く分からない。手の平と同じ位の温度のようにしか感じない。
「ほら、八戒に診せねえと・・・、ってナニやってんの!!」
「煩えな。熱ィんだよ」
熱を解放しようともぞもぞと法衣を肩から落とそうとする、が、悟浄の手によって法衣が引き上げられる。
「熱いのは熱があるからなんだっつうの!脱ぐんじゃねえよ!」
「脱いだ訳じゃねえ、熱いから少し涼もうとしただけだ」
「脱いでたじゃん・・・ああ、もー良い。とにかく法衣はこうやって、しっかり着込んでな」
こうやって、と言いながら悟浄の指が俺の手を掴んで、法衣の袷をしっかりと握り締めさせられる。 ほら、八戒の処に行くから、と言って悟浄の腕が肩に回されたかと思うと少し前に背を向けて来た方角に向かいずるずると引きずられる。
身体を前方に引っ張られる侭仕方なく暫し脚を動かすが、 思うように脚が上がらず些細な窪みや小枝の塊に脚を取られそうになるのを自分でも忌々しく思う。 きっと、酔いが回っているだけだ、そう思い込もうとし、今日は酒を飲んでいない事を思い出した頃徐に肩を押され座れと命じられる。 全身が怠く、ほんの少し歩いただけなのに息が上がっている。横になりたいと思ったが、 今は下僕共の目の前だと言う事を思い出し歯を噛み締めて意識を保つ。
「三蔵」
呼び掛けられるのに無言で視線だけを上げて、八戒がそうっと伸ばして来る手の平を待ち受ける。
「・・・大分熱いですね。何時から熱があったんですか?」
「知るか」
熱があると言われてみればそうなのかも知れないが、とにかく自分で気付いていなかったのだから答えられる筈がない。
「身体が怠いとか、気が付いたのは何時頃でした?」
「さあな」
「しようのない人ですねえ」
多少具合が悪かろうがなんだろが現に今まで何事もなく動けていたのだ、だったら何も問題はないじゃねえか。 第一メシだってちゃんと食えた、てめえらは大袈裟に騒ぎ過ぎなんだよ。 それに体調の悪さを隠す事にかけてはお前だって相当なモンじゃねえか・・・とは思っただけで口にするのは止めておいた。
「・・・とにかく、今夜一晩様子を見ましょう。火の番は僕達で順番に起きますから、三蔵は寝ていて下さい」
良いですね、と問われるのに承諾の言葉を返したのは悟浄と、悟空だった。
その後は荷物のように手早く毛布でくるみ込まれて横にされ、額に濡らした布を置かれた。 一人一枚ずつしかない毛布を一人で二枚も使ってしまったら下僕の分が足りなくなる、と思ったが気にしない事にして目を閉じる。


「それにしても良く気付きましたね、悟浄」
少し離れた処で気遣うような小さな声でぼそぼそと会話が続けられている。
「そーそー、三蔵って普段ぶっ倒れるまで具合悪いのなんて気付かせないじゃん」
「・・・・・・っ、あー、まあ、それは、アレだ」
「アレ?」
「えーっと・・・・・・カンってヤツ?」
「そうですか?」
「そっ、そう、何かいつもより大人しかったし」
ヘタな事を言ったら殺す、そう思って睨み付けてやろうとすると笑顔の八戒が何故かこちらを振り返る。
「・・・・・・」
慌てて、寝た振りをする。
後は適当に誤魔化しとけ、クソ河童。




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