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競馬パラレルSS その6 * * * その51 * * * 2004.7.10 「グラスワンダーの初仔、明日デビューだって知ってた?」 そう電話したのは金曜の夕方。 その時三蔵はどんな表情を浮かべていただろう。口元に笑みを浮かべていただろうか? グラスワンダーと同じオーナーの持ち主でこれまたグラスワンダーを管理していたのと同じ調教師に預けられた、 グラスワンダーの仔として生まれたのが一番目でデビューまで一番最初と言うその馬。 三蔵は今頃何処にいるのだろう。 一人、早朝に起き出して切符を手配して福島競馬場に行っているだろうか。 それともグリチャことグリーンチャンネルの入る知人の家にでも転がり込んでいるだろうか。 それとも何もしないで普通に過ごしているのだろうか。 「・・・こんな事なら一緒に福島行こうって言えば良かったなあ・・・」 はあ。 日曜から旅行の予定があるので体力温存と思って言い出さないでいたのだが福島だったら日帰り出来る。 こんな風にうじうじと部屋の掃除をしている位だったら三蔵を誘っていれば良かった。 そう言えば去年三蔵達と福島に行ったのも開催最終週だったな。と煙草の煙をぷかりと吐き出しながら思い出した。 グラスファイターはこの日1番人気6着で8月1日に未勝利戦勝ち上がりました。 * * * その52 * * * 「三蔵、これから会える?渡したいものがあるんだけど。出来れば三蔵の家が良い」 羽田から帰るモノレールの中で電話した。 「・・・ああ?」 「北海道土産の夕張メロンあるんだ。悪くなっちゃうからさ、渡したいんだけど」 勿論北の地から持ち帰ったのはメロンだけではない。職場への土産にそれから数日分の着替え、 バカでかい手荷物を持ちながらも電話したのは、宅急便で送るのが面倒だった所為だけではない。 「・・・丸か?」 「そ」 「そんなもん渡されても困る」 「だから三蔵んとこで半分こして俺も喰うよ。残った分が三蔵への土産」 「それは土産と言わん」 夏休みは北海道へ行こう編。 * * * その53 * * * 「北海道へ何しに行ってたんだ?」 俺の土産の夕張メロンを喰いながら三蔵が訊ねる。 「それは勿論門別競馬場!・・・じゃなくて牧場見学。門別の開催日じゃなかったんだよな、一度行ってみてえんだけど」 「そうか」 「そんでね、テイエムオペラオーの居る牧場ってグランドオペラがいるんだけどさ、 どうせだったらメイセイオペラとオペラハウスも同じ所にいたら面白いと思わねえ?」 「思わねえよ」 オペラ馬集めて 「『これぞまさしくオペラハウス!』」 つうのはあまりにもあまりなので言わせませんでした・・・。 テイエムオペラオーの父はオペラハウス、メイセイオペラの父はグランドオペラです。 * * * その54 * * * 「こんな本買ったんだけどさ」 悟浄がごそごそと取り出したのは「○馬○場○ぐ○ガ○ド」の最新刊。 牧場巡りをする者の為、或いは容易く北海道へは出向けないファンの為、 或いは見学不可な馬の現在の動向をファンに知らせるその本の存在は、勿論三蔵も知っていた。 「この本がどうかしたのか?」 「○グ○ス○ジ○ルの写真がさ、○っ気出してんだよ。しかも巻頭カラー」 「わざわざ指差すな」 「しかも編集スタッフに女の人もいるんだぜ。それも複数。どーゆーんだろうなコレ。ファンサービスのつもりなのかな」 「俺が知るか」 「俺だったら人前にそんな姿晒したくないけどなあ」 「心配しなくても誰もお前の裸写真なんざ撮らねえよ」 種牡馬は特定の牧場にずっといる訳ではなく廃用(・・・) になったり移動になったりするのでこの本の寿命はせいぜい2、3年で牧場行く人はどんどん買い換えるのですがだからと言ってアレはあんまりだ。 ・・・と思ったらこの年を最後に廃刊になりました。 * * * その55 * * * 悟浄が北海道でデジカメで撮った馬の写真を一通り見た後、三蔵は「見るか」と言ってポケットアルバムを数冊持ち出して来た。 「ん?誘導馬の写真?」 「ああ、コレはツルマルツヨシだ」 「へ〜!ツヨシって今誘導の仕事してんだ」 ぺら、と写真をめくりながら。 「でもこうしてロングで数頭並ぶとどれだか分かんねえな。あんま特徴無い馬だから」 「頭ボサボサなのがツヨシだ」 「ボサボサって!」 本当ですよ! 馬写真みせびらかし会。ツルマルツヨシは京都競馬場の誘導馬です。 * * * その56 * * * 「何で北海道から帰って来て直行で俺に連絡したんだ?普通・・・」 友達とか恋人の所に連絡するだろ、と言おうとしたがもごもごと誤魔化す。 どんなに付き合いが長かろうとも競馬開催のある日にしか会う事の無い相手を友人だと思っている訳はないだろうと、 自分より親密な付き合いをしている友人が他にいるだろうと、 そう思ったがわざわざ言うのも僻んでいるようで口にするのは憚られた。 「だって牧場巡り行ってたんだもん。馬好きなヤツに一番に話したいじゃん」 旅の間に日に焼けたのだろうか、最後に中山で会った時より色の黒くなった悟浄がそう言い、に、と笑った。 「甘いな」 しゃくりと悟浄の手土産の夕張メロンを喰みながら言う。 「ん」 口を一杯にしながら悟浄は既に次の一口大に切り分けた赤い果肉をフォークに突き刺している。 持ち上げたメロンからねっとりと濃い汁が滴る。 三蔵も折を見ては北海道に出掛けてるんですがだったら二人で行けばー・・・とか思うんですが。 でも好きな馬が相当被ってる同士でないと短期休暇の間に好きな馬見て回るのは無理かなあ。 * * * その57 * * * 何だか三蔵は少しぼーっとしている。ハラでも痛いのかも知れない。 切り分けられたメロンが、まだ皿の上に残っている。 「三蔵、具合悪い?だから俺が三蔵ん家行くっつったのに」 「何処も悪かねえよ。大体普通は旅行帰りっつったら疲れて出掛けたくないからそっちから来いって言わねえか?」 「いーじゃん別に。なーなー、今度三蔵の家遊びに行って良い?」 「断る」 「何だよいーじゃん。メロン喰わしてやってんのにさー」 「メロン如きで上がれる程安かねえ」 「そーゆー事言うと中山開催に戻った時大万馬券当てても一人で蟹食い放題とか行って写メールで自慢するからな! 写真だけだぞ!三蔵には喰わせないからなっ!」 「俺の携帯はお前のと違うからどの道写真なんか送られても見られねえよ」 「・・・!!何だよさんぞーのバカー!もう帰るっ!」 「ここはお前の家だろ」 珍しく三蔵が悟浄さんの事を意識してんのにハラ痛いのとか言ってる辺りダメダメ。 * * * その58 * * * 「なあっ、この新商品の○ラン不味いと思わねえっ!?」 決死の形相で悟浄が差し出したのはぶっといポッキーのような菓子。 「不味いと思うんなら人に喰わせようとするな」 「だって新商品だし」 理由になってねえよ、と思いながら受け取ってやって口に入れる。 「どお?」 「・・・・・・この暑い最中にチョコ菓子を常温で喰ったら不味いに決まってんだろうが」 競馬パラレル悟浄さんは新商品チェッカー。フラ○は30度超える日に喰うもんじゃないです。 秋の新製品って暦の上の秋でなく気候として秋になってからリリースした方が良いと思います・・・。 * * * その59 * * * 「ステイゴールドの妹のプリンセスゴールドがさ、新馬戦勝っただろ」 「そうか」 「でさ、ステイゴールドって名前の割に真っ黒だったけどプリンセスゴールドは尾花栗毛なんだよ」 「ほお」 「ステイの母のゴールデンサッシュも実は金髪栗毛ですげー派手なんだけどさ・・・」 ふっと言葉を途切れさせ、徐に悟浄がこちらを覗き込んで来る。 「?何だ?」 「いや、三蔵ってさ、馬だったら尾花栗毛なんじゃねえの。きっと鼻筋に大流星なんかあってさ」 「・・・・・・」 金髪なのは本当の事だから認めるが何で流星じゃなくて大流星なんだ。しかも本当は「どばっと」とか言うつもりだったろうが。 尾花栗毛と言うのは栗毛でタテガミが金髪な馬の事。 尾花栗毛と言うとトウショウファルコを思い出します。 現役引退後は府中で誘導馬をしていたグッドルッキングさんでその後根岸馬の博物館で展示されてました。 * * * その60 * * * 「・・・なあ、メニューに「ワンタン」って書いてあったからワンタン麺だと思ったんだけど、 コレ本当にワンタンしか入ってねえよっ!」 「知らなかったのか」 中山競馬場の地下1階のラーメン屋。薄汚れた白いカウンターで悟浄と三蔵は並んで遅い昼食を摂っていた。 因みに何故並んでいるかと言うと二人の視線の先にモニタが備え付けてあってパドック映像が映っているからだ。 勿論テーブルの上には丼の他に競馬新聞が広げてある。 「だって普通ラーメン屋でワンタンっつったらワンタン麺に決まってんだろー!」 「だがワンタン麺ってその隣の隣くらいにちゃんと書いてあったぞ」 「・・・!嘘・・・!!」 「本当だ」 本当です。 競馬SS5 背景画像は中山の誘導馬キルトフォーユー@有馬でおめかし。 競馬SS7 novel−競馬パラレル |