競馬パラレルSS その12



* * * その111 * * *

「なーなー、今年も行くだろ、ダービー」
「今年のダービーは前売り入場券が要るぞ」
「うっそ」
ここ数年は当日に記念入場券が売り出される事はあっても前売り発売なんてなかったのに。 これもディープインパクト効果と言うヤツだろうか。
「本当だ。J○AのHP見てみろ。確か29日と5月1日と7、8・・・」
「春天とNHKマイルの日か。NHKマイル見に行くついでに買うのが良いかなあ。なあ」
「行かねえぞ。てめえが行って買って来い」


そしてNHKマイルの日。ダービーの前売り入場券を2枚俺は手にしていた。
遠くて行くのが面倒だと言う府中へは、誘うと必ず三蔵は一度は断りの言葉を口にする。 然しダービーは「イヤだ」の一言も無くあっさり前売りを買いに行けと言われた。
これってすげー進歩だと思わねえ?



まだ諦めてなかったんですね悟浄さん・・・!!




* * * その112 * * *

「せーのっ、アドマイヤグルーヴ」
「いきなりソレか。ヴは難しいからブで良いだろ」
「うん」
「じゃあブイヤマト」
「トーアステルス・・・あー、出負けした・・・」
「スーパーオトメ」
「メガスターダム」
「・・・ムータティール」
「ルッ、ルーブルアクト」
「トウカイパルサー」
「サーガノヴェル」
「ルールファスト」
「トウカイテイオー、まだ早えだろ・・・!」
「オーガスタシチー・・・前が止まらないな」
「チーフベアハート・・・届かないか・・・?」
「トリリオンカット」
「トウカイオー・・・、あっ、行け行け、差せ差せーっ!っつしゃー!」
「お前の番だ」
「・・・三蔵はん達、いつもこんな事してはるんですか?」



久々に馬名しりとり。




* * * その113 * * *

「なあ、うちもやってみてええ?」
「別にいっけど。んじゃあんたからな。いきなりアドマイヤドンとか言うなよ」
「お前じゃあるまいし」
フン、と三蔵が鼻を鳴らして微かに笑う。
「あっ、あれはたまたまだろっ!」
「じゃあタイムリーにラインクラフトからでお願いしますわ」
狼狽える俺を尻目に、と言うか多分無視して、何事もなかったようにヘイゼルがへらへら笑いながら言う。
三蔵の人をバカにしたような笑い方も気に入らないが、ヘイゼルの笑い方はもっと気に入らねえ。 だからいち早く続けた。多分コイツは三蔵に後を続けて貰いたがっていると思ったから。
「トね。トップガンジョー」(悟浄)
「・・・次アンタだぞ」(三蔵)
「・・・ジョーディシラオキ」(ガト)
「キングカメハメハ」(三蔵)
「ハッピーパス」(ヘイゼル)
「スルーオダイナ」(悟浄)
「・・・ナゾ」(ガト)
「・・・ゾ?」
(よりによってそんな難しいのを・・・!)



いる事はいます、ゾで名前の始まる馬。




* * * その114 * * *

位置取りは微妙だった。と言うか良くなかった。
道中の手応えも微妙だった。と言うか折り合いを欠いてバタバタだった。
最後の直線は見る処もなかった。
アドマイヤグルーヴの果敢な春天挑戦は、本当にただ他馬と一緒にコースを回っただけに終わった。
「・・・・・・。」
波乱の大万馬券が獲れなかったのはともかく、 アドマイヤグルーヴの出走のみを楽しみにしていた悟浄に対してどう言ったものか、俺は押し黙った侭だった。
「あー・・・言葉もないってカンジ」
テレビの前で悟浄が大きく伸びをしながら思ったよりもさばさばと口を開いた。
「さんぞ、ビール出して。飲も」
「・・・ああ」
悟浄が手土産として持って来たビールが冷蔵庫で冷えていた。
「かんぱーい、お疲れ様ー」
「テレビ見てるだけでお疲れな訳あるか」



入る場所がおかしくなってしまいましたがSSその110の続きです@春天。




* * * その115 * * *

GIだからと言う事を抜きにしても、好きな馬の出走するレース前は落ち着かない。
何より怪我一つしないで無事に走り終えて欲しいし、 その上馬券の妙味と言う事を差し置いても勝ってくれたらもっと良い。 そうは思いはしても展開次第では見せ処の一つもない侭脚を余して終える事だってあるかもと、 ちゃんとそんな事は俺だって考えてはいたんだが。
予想以上、だった。
折り合いに専念しようとした鞍上の策が逆に馬の気を削いでしまった。
「走りたくなんかないのよ」
と言いたげに行く気を無くす姿は彼女の母の現役時には見た事もないもので。 レースが終わってからもやもやとしたものが残った。
三蔵と一緒で良かった、と思いながら缶ビールのプルタブを引く。 出来れば祝杯とシャレ込みたかったのだが。 ビールに口を付けた後三蔵が立ち上がった。
「・・・そうだ、ツマミがある」
「お、さんきゅー」
渡されたのは上品そうな小箱で、煮魚とかそういう渋目の酒の肴かと思った。
「げっ!!」
覗き込んで絶句する俺の目の前で三蔵はビール片手にソレを食い始め、尋ねた。
「・・・くず餅は嫌いか?」



船○屋のくず餅は意外と酒と合いそうな気がします。試した事はないですが。




* * * その116 * * *

「買い目に困った時って誕生日買いとかするんだけどさ、 当たらねえんだよなコレが。よく高額払い戻しの人のコメントで自分のとか孫の誕生日と同じ馬番で買ったら当たったとか言うんだけどなー」
「何日だ」
「11月9日。だから10頭立てだと買えねえんだけど(笑)・・・三蔵は?」
「・・・買えるだけまだマシだろ」
「えっ?」
「俺は29日だ」
「ぶ・・・っ!!ぎゃはははは、そりゃツイてねえな! グランドナショナルだったら確か今でも40頭立てくらいだからイギリス行けば良いじゃん!!」
「・・・死ね」



40頭立てと言うのは本当です。 これだけ頭数多いと一頭転ぶと他の馬も転倒した馬を避けられなくてぼろぼろ転倒して大変な事に。




* * * その117 * * *

「・・・なあ。気になってんだけどさ」
「何だ」
「何で最近いっつもこいつらが一緒にいるんだ?」
「まあまあ、ええやないですの。大勢で見る方が楽しいですやろ?」
「・・・・・・」
「イヤ、俺が気になってんのは、俺が一人で競馬場行ってもこいつら現れないのに、 ホラ、こないだダービーの前売り買いに行ったじゃん、あの時はこいつらと会わなかったんだよ」
「別におかしい事じゃねえだろ」
「だけどさ、何で俺と三蔵が一緒にいると必ずこいつらが現れるんだ?」
「・・・偶々だろ」
「思うんだけどさ、三蔵、アンタ発信器か何か仕込まれてんじゃねえの?」
「・・・ソレはねえだろ」
「大勢で見る方が楽しいんやからええやないですか」
「そう、幾ら何でも・・・・・・。何?」



↓続く。




* * * その118 * * *

「・・・・・・(疑)」
「いややわあ、冗談の通じんお人やねえ」
「てめーが言うと冗談に聞こえねえっつうの」
「あ、三蔵はん何処に行きはりますの」
「何処に行こうと俺の勝手だ。ついてくんな」
しっしっ、と後を付いて来ようとするヘイゼルを手で振り払う仕草までして見せるのにヘイゼルがあからさまに肩を落とす。
「酷いわあ。折角三蔵はん達と一緒に食べよ思て花○饅頭買うてきとりましたのに」
その言葉に三蔵が足を止めて振り返ると、確かにヘイゼルの白い手袋を嵌めた手の中には「日本一高い、日本一美味い」○園饅頭の箱。
「ああ、うちとガトだけで一箱食べるのはきっついわあ。この陽気やし、残したら悪く・・・」
「そんなもんがあるんだったら早く出せ」
「三蔵はん・・・(嬉)」
「この陽気に饅頭を差し入れよーとするヤツの気が知れねえ・・・」



少し前まで疑いの目で見ていたのに甘いモノを差し出され陥落する三蔵。
「甘いモンが好きなヤツに悪いヤツはいない(もぐもぐ)」
「誰が言ったんだよそんなコト」





* * * その119 * * *

「やっぱりお値段だけあって美味しいですわあ、なあ、三蔵はん」
「・・・・・・まあな」
片手に競馬新聞、片手に花○饅頭を持った侭もくもくと三蔵は食べ続ける。
「三蔵はん、お茶如何です?ガト、給湯コーナー行って茶ぁ持ってきてや」
「ああ」
「・・・もう(一箱の)半分しか残ってねえ・・・なあ、あんた甘いモン好きなの?」
まだ夏でもないと言うのに過激な陽気に餡が既に生温くなっているその饅頭を延々と三蔵は食べている。
「嫌いだと一度でも言ったのを聞いた事があるのか。聞いた記憶があるとしたらてめえの頭がどっかおかしいんだ」
「あー、ハイハイ。何で好きって素直に言えないのかねえ・・・」



○園饅頭は結構止まらない美味しさです。




* * * その120 * * *

「・・・海外だと競馬って正装でっつうじゃん」
「香港で見た短パンでビーサンのオヤジ達の格好を正装と言うならそうだろうな」
何処までも素っ気ない口調に減らず口。なんだって三蔵と言う奴はいつもこう皮肉げな物言いをするのか。
「あー、欧米の事だっつうの。んでさ、GIの日なんか女の人は皆すげー帽子被ってんじゃん。鈴木○子みたいな」
「・・・・・・ああ」
そこで二人はじっと、傍らの痩身の奇妙な形の帽子を被った男を見遣る。
「いつもはすげー浮いてっけど、そう思えば今日はおかしくないか・・・」
「いやですわあ。誉めても何も出まへんて」
「誉めてねえよ」



@2005.ダービーデー。






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背景は新潟の誘導馬スーパージーン!

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