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花満天 8
仕事から帰ってみれば三蔵がいて難しい顔をして八戒と矢張り難しい話をしていた。 「天竺の言葉の分かるヤツが長安にもいれば良いんだが」 ひとしきり話が済んだ後八戒の炒れたコーヒーを呑みながら最近は寺の坊主達に天竺語を教えているのだと言う三蔵がぽつりと言う。 吠登城で大怪我を負って以来一回り線の細くなった三蔵はその後西から戻る行程の途中でも、 長安に戻ってからも結局旅に出る前のような体付きに戻る事は無かった。 結果、横顔のラインは以前よりも険しくなり眉間に皺を刻んでいない時でも不機嫌に見えるようになった。 「・・・落ち着くまでは無理じゃないですか」 「多分な」 あの異変の際自我を失った妖怪によって破壊された街や集落、それに街道の整備。 そして街道が復興したとして悪路を鑑みずこんな遠い処まで遙々天竺の者が足を運ぶ気になる、 或いは遠くまで旅が出来るだけの財力を得るには相当な時間がかかるだろうと二人が語るのを俺は豆大福を喰いながら聞いていた。 三蔵は自分が仏道に属する者らしい思い遣りがあると思われるのが嫌いだ。 実際三蔵はすぐ俺や悟浄をハリセンで殴ったり銃で撃ったりする短気な乱暴者だが。 でもそれだけでなく本当は三蔵はすごく優しい。 何の関係もなくあの異変に巻き込まれ生活を滅茶苦茶にされた人達の事をこうしていつも気にしている。 顔も名前も知らない人達の事を憂えている三蔵の姿が寺の坊主達にはただ機嫌が悪いようにしか見えない事を悔しく思う。 荷運びの仕事で会う街の人達や職場のおっさん達は勿論尊い三蔵法師をソンケーしてはいるが三蔵が神仏みたいに手が届かない人なんかじゃない事を知らない。 その事を少し残念に思う。 帰り際に三蔵が 「寺にいない時はここに連絡しろ」 と言ったので三蔵が寺を出た事が分かった。告げられたのは少し前長安に引っ越して来た悟浄が住んでいる家と同じ住所だった。 旅の間に何となく二人の間に何かあるのは気が付いていた。 宿に泊まって三蔵と悟浄が一緒の部屋になった翌朝、三蔵から微かに香る悟浄の肌の匂いとか。 目を細めて三蔵の姿をそれとなく追っている悟浄の視線とか。 俺が幾ら煙いと文句を言っても気にしない筈の悟浄が「タバコ」 と言い置いて離れて煙草を吸いに行く時は三蔵が離れた所で煙草を銜えている時だけだとか。 隠すつもりはなさそうだったがだからと言って別段表立っていちゃいちゃしていた訳でもなかった三蔵と悟浄は、 長安が近付いて来ても二人とも終わりの近い旅を惜しむように二人一緒の部屋になりたいと強く主張する事はなかったし、 長安に戻ってからは俺の知る限りでは三蔵から悟浄の家に出向いた事は一度もなかったし寺に悟浄が寺に来たとも聞いた事もなかった。 思慮深い八戒は告げられた住所を聞いても何も言わなかったが俺は口を開いた。 「三蔵、悟浄と一緒に住むの?」 「そうだ」 僅かに高い処から見下ろして来る視線は俺から逸らされる事なく、三蔵は鷹揚に肯定の言葉を口にした。 「そっか。じゃ今度遊びに行くから!八戒も一緒に!な、いいだろ八戒?」 「そうですね」 見上げると八戒はほんの一瞬戸惑った表情を見せた後にっこりと笑った。 少しイヤそうに顔を顰めた三蔵は、それでもとても綺麗だったから三蔵が自分が決めた事を悔いてはいない事が分かって嬉しくなった。 俺は、三蔵が幸せであったらそれで良いのだ。 戻る/続く novel |