花謝花飛 4
三蔵は眠りに落ちる迄の時間が短い。
1、2の3、は大袈裟にしても横になったかと思うとすぐに眠りに入る。 まあこれも一つの集中力の賜物なんだろう、オンとオフをスイッチのように切り替えて休みを取る事で体力を保全する為の。 眠りに落ちるのが早いからと言っても眠いのを死ぬ程我慢していたとか爆眠して朝まで起きないとかそう言う訳でもなく、眠りは浅いらしく少しの物音ですぐ目が覚める。 そしてその代わりかどうかは知らないが朝は早い。 早く起きたからと言ってまだ寝ている人間を叩き起こすタイプでないのは助かるが目が覚めると大抵三蔵は先にベッドを出て身支度を整えて黙って部屋を出て行ってしまう。
だが時々俺より先に目覚めた三蔵がその侭ベッドから抜け出さないでいることがある。 俺の隣で上半身だけ起き上がった侭、或いは横になった侭。そして俺の髪を指先で飽きる迄梳いている。 俺が起きているとは思ってもいないのだろう、時折髪先を指に絡めて口付ける事もある。 三蔵がどんな表情をしているか見たいとは思うもののそんな時俺は寝たフリを続ける。 街の女の子達に幾ら「綺麗な髪ね」と言われても一度も嬉しかった事のない髪なのに三蔵の指がさらさらと掠っているのはとても気持ちが良いから。







天竺にいた間足繁く寺院通いをしていた三蔵に、未知の教典に夢中になって俺らなんか視界にも入っていないっぽい三蔵の様子に多分俺は妬いていたんだと思う。
寺から戻って来るのを待ってすっかり線香の匂いの染み込んだ法衣を剥いで連日ベッドに引き込んだ。 三蔵が長安に居た頃は法衣が抹香臭くなっているのなんて当たり前の事だったから特に気が付きはしなかったが、 旅に出てからは滅多に寺院に立ち寄る事も無かったので何時の間にか法衣からはすっかり線香の香りは抜け落ちていた。 血と硝煙と埃の匂いは旅の間に三蔵にそして俺達の身に馴染んだものだったから、 久し振りの香は三蔵が大昔に死んだエライ人の教えを守る為に現世の快楽を捨てて一生を捧げてる坊主どもの領域に棲む者だと、 俺達とは『違う』のだと思い知らされるようでちょっと面白く無かった。 だからベッドに押し倒す前に線香の匂いの染みついた法衣を脱がせる。 衣擦れの音と共に床に落とされ地に蟠った侭打ち捨てられた法衣をベッドの上から首を捻って三蔵はしきりと気にしていたけれどそれもすぐ快楽に飲み込まれて忘れ去られる。





「な、もっかいイイ?」
そう言ってぐったりと寝台に横たわった侭の三蔵が大して力の入っていない手で俺の身体を押し退けようとするのを無視して再度自分自身を沈める。
「あ、や・・・あ」
尚も宙を泳ぐ三蔵の腕を両手で軽く押さえ込む。
「イヤな訳ないでしょ。こんだけ濡れてるし」
「当たり、前・・・」
先程自分が放ったもののせいですんなり呑み込まれて行く猛り。勢いを借りて奥深くまで一気に貫けば途端に跳ね上がる三蔵の躯。
「ほら、イヤじゃないでしょ」
「んん・・・っ」
三蔵はゆっくりと首を打ち振るが躯の方は素直でまだロクに愛撫も加えていないのに三蔵の其処はまるで女のようにひくりと痙攣を始める。 その淫らな姿にごくりと喉を鳴らしてわざと腰を引いて浅い処をゆっくりと行き来する。
「あ、く・・・・・・、っ」
固く目を閉じて皺で撚れたシーツの上で金糸をぱさと音を立てて散らす色っぽい仕草。
「・・・欲しい?」
「・・・やめ・・・・・・」
「うっそ、止めちゃって良いの?」
ひゅ、と息を吸い込みながら小さな声でまだ強がってみせる三蔵におどけてみせ裸の胸を合わせてぐ、と腰を押し進めると堪えきれないように甘い息を吐きながら三蔵は身を捩り白い足先がシーツから浮き上がった。
口ではどれだけ嫌がってみせても躯はえらく正直だ。何だか最近の三蔵は良いカンジに乱れている、とでも言うか。 今迄のように欲しがる俺に無理に応えてみせてるのではなくて三蔵の方から俺を欲しがってくれている、ような気がする。 幾度身体を重ねても行為に馴れる事の無かった三蔵だが今迄は三仏神から賜った使命だとか昼夜問わず襲い掛かって来る刺客だとか、 そういったものに始終気を張り詰めていた所為かも知れない、と思う。 重荷が無くなって、いや、無くなった訳ではないだろうが多少肩の荷が下りた事で素直に行為に入り込めるようになったのではないかと思うのは俺の勝手な想像だろうか。
この侭どんどん開発されてどんどんえっちな躯になっちゃってくれても俺としては大歓迎なのだが。
「あ・・・ご、じょ・・・お」
熱に浮かされたような瞳。無意識なんだろうがこんな時だけ舌っ足らずになる口調。 何か苦しいモノでも呑み込んだかのように名前を呼んだ時語尾が掠れる癖。
大の男の痴態を目の当たりにしても萎える事なく俺は腰を打ち付ける。


「止せ・・・!」
初めての時、俺自身を全部三蔵の中に収めてからそんな事を言われてしまったあの日から比べるとえらい進歩だ。 あの時の三蔵は殆どパニックを起こしかけて死にかけのヒヨコのように頼りなく震えていた。
「三蔵、三蔵・・・」
繰り返し名を呼んで抱き締めて躯の強張りを解してやってからゆっくり動くと時折痙攣のようにひくんと震え上がりながらも三蔵はされるが侭になっていた。 決して慣れてはいない行為なのに俺を信じて躯を預けてくれた三蔵を大切にしてやりたいと、その時思った。


ベッドの上に寝っ転がってぼんやりと煙草をふかしながら何で今更一年以上も昔の事を思い出しているのかと、ふと可笑しく思う。
「何気色悪いツラしてんだ」
「気色悪いはないっしょ。こんなイイ男をつかまえて」
顔が笑っていたらしく三蔵が顰めっ面で告げるのに金糸をくしゃりと掻き回しながら答える。
そっか、もう一年以上も続いてるのかとちょっと我ながら関心する。
誕生日だクリスマスだバレンタインだと、イベント毎に盛り上がった記憶の丸っきりない相手とよくこれだけ続いていると思う。 いや、俺の誕生日は祝って貰ったんだが確か旅に出た最初の年は三蔵は自分の誕生日を俺達には教えてくれず、 漸く悟空が口を割ったのはその日が疾うに過ぎた頃だった。 しかも何で誕生日をナイショにしてたのかと尋ねたら怒られた。 怒ったと言うか誕生日、と言った途端血相を変えたもんだから他の女の子の誕生日と間違えたかと思って内心冷や汗をかいたものだ。 酷えよ三蔵。俺だっていいトシして誕生日なんざ祝ってもらう程のもんじゃねえと思っているがアレはあんまりだった。 俺はイベントごとって結構好きなのに誕生日だけでなく三蔵のイベント(仏事)カレンダーと俺のイベントカレンダーは悉く噛み合っていない。 つーか三蔵の場合カレンダーとも言わねえな、あれは暦と言うのだ爺くさく。
よくぞ此処まで生活が違う相手とこんな関係になってしかも続いているものだ。
自分で感心しながら煙草を灰皿に押し付けて布団に潜り込んだ。

三蔵が長安に戻ったら、もっと寺に近い処に引っ越すと告げてみた事がある。 三蔵からの返事は可とも不可とも取れるような取れないような良く分からないものだったが。 ちゃんと長安で暮らしていけるのだったら来れば良いと、そう言ってるようにも聞こえない事も無かった。 自分の事は白黒はっきりさせる三蔵だが他人には行動を強制しない。 選択肢は一つでは無いのだと指し示した後「お前の好きにしろ」と告げる。 つまり俺が長安に居住を移すにしても三蔵は止めろと言うつもりは無いと思っても良いのだろう。
今の家は長安から遠く離れたと言う程遠い訳ではないがまあどう間違っても近いとは言えない距離なので三蔵が出向いて来るにしてもそうそうお手軽には出て来られないし。 そもそも考えてみたら旅に出る前は滅多に三蔵からは俺の家に来た事も無かったし。 俺だって用も無いのにひょこひょこ寺まで出向いた事は無かったし。当たり前だ、だって寺だ。 爺婆じゃあるまいし誰がそんな処呼び立てもされないのに出掛けるものか。
いやいやそうじゃなくて。
越した後どうするかは決めていない。 本当は三蔵が寺を出てくれれば良いんだがそんな事までコイツに強要するつもりは無いのでこっちから勝手に長安に押し掛けてしまえと言う事だ。 後の事は三蔵に決めさせる。 一種の賭だ自棄っぱちの体当たりだ。女に追い掛けられた事はあっても誰かを追い掛けた事なんて一度も無い色男がなんてザマだカッコ悪うい、と自嘲する。 それでいてフラれたら怖いので取り敢えず近くに行って必死に本気をアピールする作戦だなんて何て初心くて狡くて小心者だ。
だって相手は「一緒に暮らさねえ?」なんて迂闊に口に出す事すら赦されない程尊い生臭坊主だ。 本当だったら高嶺の花だ尊くて尊くてそりゃあもう目の玉が飛び出る位身分違いだ。 10代のガキでもあるまいし当たったら砕けると判っているのに玉砕する趣味は俺には無い。


何て面倒な相手を好きになってしまったもんだと、 独り笑いながら先に眠ってしまった三蔵の金色の髪を掌で撫でた。




戻る続く

三蔵誕生日ネタもバレンタインネタも無かったのはそう言う訳です。 悟空の誕生日前後に出発(出発時悟空19歳、或いは出発して直ぐに19歳)、 一年数ヶ月で蘇生実験阻止達成、帰りは早めに帰れて丸二年目位で長安着、と言う設定です。

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