冬の花
熱燗と火鍋と餃子とで新年を迎えた。
年の変わる時間より少し前に外に出て盛大に上がる花火を眺め、街のあちこちから聞こえて来る威勢の良い爆竹の音と、 同時に聞こえて来る幾重にも重なる「恭喜發財」の声に悟空が手にした爆竹を鳴らす。
「う〜、さみぃ」
ほんの僅かの時間に肩に乗った白いものを手で払いながら温かい家の中に戻る。 日が暮れる頃降り始めた雪が止む事なく静かに地面に積み重なっていた。
「夜が明けたらお寺に行きませんか」
作りたての甘酒を陶器の器に注ぎながら八戒が提案する。
「うんっ」
両手で持った器をふうふう冷ましながら悟空が嬉しそうに返事する。
「行くなら二人で行って来いよ。俺は留守番で良いって」
大して好きではない甘酒だが、八戒が作っただけあって飲みやすくて美味い。
「まあまあ、そう言わず」
そう言いながら八戒が湯気の立つ自分の分の器を手に席に戻る。
今この場にいるのは悟空と八戒と、そして俺の3人きりだった。
三蔵は、寺にいる。
三蔵法師様には、と言うか寺院関係者には年末年始のオヤスミはないのだ。





「三蔵はこーゆー時ってナニやってんだ」
何時の間にか雪は止んでいて、重たく冷たい色をしていた厚い雪雲も去っていた。 踏みしだかれていない新雪に喜んで足を突っ込んで歩く悟空に話かけようと口を開けば息が白く、思わず寒さに肩を竦める。
「参拝に来た人にお経を詠んであげてる」
「参拝に来た人に・・・ですか」
「そりゃあキリがないんじゃねえの」
去年長安に引っ越して来たばかりの俺らにだって、慶雲院と言う処の規模のでかさは分かる。 法会や何かの時に訪れる参拝客の多さも。
「ううん、時間が決まってるんだ。一日5回」
「何だ、随分少ないな」
「その他にも何かエライ人が挨拶に来たりして、この時期は三蔵、すげー忙しいんだ」
「ふゥん」
少し声音を固くする悟空に、そうやって寺が一日ざわついている中、 する事もなく三蔵にまとわりつく事も出来なかった昔年を感じ取る。
その、自分だけが置いて行かれたような寂しさは今は俺のものだ。
「悟空はお正月はずっとお寺にいたんですか?」
先程の悟空の声の固さを八戒も感じたのだろう、そう訊ねる。
「うん」
「ウチに来れば良かったのに」
「いいんだ」
ざく、と新たに雪を踏み付けながら振り返った悟空は、何故か笑顔だった。
「三蔵がお経詠んでる時、いつもこっそり木の上とかで聞いてたから。三蔵のお経詠む時の声って好きだからさ」
へへっと少し照れたように笑うのを見て、安堵した。
あの寺での異端の存在である悟空の立場があまり良いものではない事を知っていたから。 寺の行事になにがしかの手伝いが出来たとも思えない悟空が忙しく立ち働く坊主共の中、 一人だけぽつんとする事もなく放り出され、保護者である三蔵とも接触する事が出来ない、 そんな日々が悟空に苦痛を与えるものでなくて良かったと。
心温まる雰囲気は然し、続く悟空の言葉によってブチ壊しにされた。
「二人にもその場所教えてやるよっ」
「いえ、僕達は・・・」
「おめーなっ!サルじゃあるまいし何で俺達が木に登って三蔵の経を聞かなきゃなんねーんだ!」
子供の頃のサルならともかく大の大人3人が木に登ってたら幾らなんでも人目に付くに決まってんだろうが!
そんな事も分からないとは、ナリばかり大きくなってもやっぱりこいつはバカ猿だ。

新年雪」の続き/続く

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