サマーアフタヌーン
○月×日
「さんぞー、お帰りー」
境内に脚を踏み入れるとめざとく気付いた悟空が言いながら走り寄って飛び付いて来る。
「わっ」
勢い良く飛び付かれれば身構えていてもこちらは体勢が崩れる。 昔は弟が出来たみたいだ、なんて呑気に考えていたが初めて会った時から歳月を経、 悟空は何だか段々力が強くなってきたようで最近では飛び付かれるとみっともなくぶっ倒れてしまう事がある。
それだけならまだ良いのだが・・・何だか・・・。
「さんぞーっ!」
「・・・・・・」
すかっ
「さんぞー、何で避けるの?」
「・・・・・・」
じりじりと。諦める事無くにじり寄って来る悟空の表情はあくまでも無邪気なガキのものだ。
「ねえ、さんぞー」
然しその悟空が無邪気な子供を装いながらも実は注意深く間合いを計っている事はその目を見れば知れた。
「なんだ」
何気ない風を装って返事を返す。
「なんで避けるんだよさんぞーっ!」
すかっ
ガラバキドガシャ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
俺に突進した勢いの侭灯籠に抱き付いた悟空はあろう事か石灯籠をブッ壊しやがった。 こいつこの勢いで俺に抱き付く気でいやがったのか。
「さんぞー」
壊した石灯籠に背を向け、くるりとこちらに向き直った悟空が尚も声を掛けてくる。
「何で避けるの、じゃねえだろ避けるに決まってんだろこのクソ猿がああああっ!」



100題「ガムテープ」にて灯籠を壊した悟空、の裏話。



○月×日
帰って来ない三蔵に悟空が情けないツラで泣き出したのは丼飯を3杯平らげた後だった。
「こないだ無理矢理○ケモンスタンプラリーに一緒に行ってもらったのが良くなかったのかな」
「イヤなら一緒に行ってないだろう」
「三蔵と一緒じゃないと風呂入らないって言うから怒ったのかな」
「いつもの事だろうが」
「う・・・っ、じゃあ昨日のおやつ、三蔵の好きな柏屋の薄皮饅頭だったのに俺が全部喰っちゃったからかなあ」
「菓子を食われたぐらいで家出するヤツなんかいないって」
「じゃあ。じゃあ・・・」
まだあるのか。べそべそと泣き続ける悟空を見かねて朱泱が立ち上がる。
「どうせそろそろ帰って来る頃だろうから門の処で待っててやろうぜ?」



midsummer day4」三蔵プチ家出裏話。



○月×日
週末に有休をプラスして里帰りすると言う悟浄に誘われて悟浄の実家に行った。 都内から新幹線とローカル線を乗り継いで約3時間の旅程はちょっとした旅気分だ。
「ウチ駅から遠いんでタクシー使うな」
そう言って駅前で止まっていたタクシーに乗り込んだ悟浄が
「○○町の沙まで」
そう運転手に告げたので驚いた。
「・・・それで着くのか」
「コレで着くんだよ」
余程家が少ないのか或いは道筋など言わなくても誰もが知ってるのか。
少し不安になり訊ねた。
「・・・お前の家ってどんなんだ」
「普通じゃねえの?っつても田舎って土地安いから、こっちの家って最近越して来た家以外は何処も広いんだぜ? 東京出て来た時はちっこいマンションが何千万もするんで驚いた」
「そうか」
・・・実は俺が住んでいるのは賃貸マンションではなく親の遺産で即金で購入したマンションなのだがそれは黙っておこう。



midsummer day3」ごじょさん実家帰り裏話。



○月×日
頭が、重い。
着いた時から空気が悪いと思っていた悟浄の実家だが、そこかしこの空気の重さに朝眼が覚めてみたら気分が悪くなっていた。 暫く布団の中で丸くなっていたが寝ていた処で原因が家の中にあるのでは収まる筈もないと諦めて微妙にムカつく胃を無視して起き上がる。
「あ、オハヨ」
夕べは魘されていたくせに妙に清々しい笑顔で傍らの悟浄が挨拶をする。
「・・・ああ」
そう言えばこの家のヤツらはこれだけ空気が悪いのに気が付いていないのか?
着替えて和風の朝食を一家揃って席に着いて喰う。 悟空並に豪快にメシを喰う悟浄の兄の喰いっぷりなどを眺めつつそれとなく観察してみるが、 矢張り誰もこの家の「気」に当てられている気配が無い。
・・・よっぽど鈍い家系なんだな・・・。
初めて会った頃、悟浄も同じ体質かと疑っていた事が今となっては冗談のようだ。


メシの後部屋に戻り思いついた事を悟浄に尋ねてみる。
「お前の兄の母親は(つまり悟浄の義理の母だ)もしかしてカンの良い方だったか?」
「ああ?そう言えば・・・捜し物とか見付けるのがうまかったとか聞いた事があったかな?」
「そうか」
悟浄の頬に残る大きな疵痕。子供に凶器を振りかぶるまでに追いつめられたのは、 この「家」の妙に神経に障る気に当てられた所為ではないだろうか。
「それがどうかした?」
「別に・・・何となく思っただけだ」
「何かトトロみたいだよな」
「・・・?」
「捜し物はなんですか〜って」
「それはトトロじゃなくて井上陽水だ」
前言撤回。もしかしたらこいつのアホさ加減に嫌気が差したのかも知れない。



midsummer day3」これもごじょさん実家帰り裏話。



○月×日
「なあ、今年も実家に帰るのに付き合ってくれないかな」
「・・・家ぐらい一人で帰れ」
「えー、いーじゃん。兄貴が結婚するって言うんで嫁さん連れて来るんだってさ」
「結婚するのはお前の兄であって俺の兄じゃねえだろうが」
「なっ、日帰りで良いから」
両腕で腰にしがみつかれ振り解こうとする努力を三蔵は途中で放棄した。
「・・・ったくしょうがねえなあ」
「ほらコレ、安く行けるし」
「・・・東京から日帰りで13,800円か・・・」
悟浄の差し出したチラシに視線を流しながら読み上げる。
「・・・+競馬場までのバス代+入場料+指定席・・・何だこりゃ?」
「あっ、間違えた」





BBSより再録。それぞれ2003〜2004年頃初出?

novel−パラレル