あめの街夜の花 1
「出てけ」
三蔵が長安へ戻って・・・いや違う、俺が長安へ引っ越して、その家に三蔵も居を定めてくれてから4日程経った時の事だ。 前の家から持って来たくたびれた然し俺にとっては愛着のあるソファで片肘をつきながら新聞を広げている三蔵が突然顔を上げて、 そう言った。

「え・・・っ、えええええっ!?」

な、何で?もう俺の事飽きたのか!?
いや然しフツーこーゆー時って自分から出てくもんだろ、この家借りたの俺だしさ、出てけはねえよ。
「さっ、三蔵!俺何かアンタの気に障るような事したか!?」
慌てて叫ぶと視線を合わせもしない侭三蔵は続けて言った。
「いい加減成仏しろ」
ひでえ・・・!(泣)
「ちょっと待て!いきなり成仏しろはねえだろ?なあ、三蔵っ!」
相変わらずこちらを見ようともしない三蔵の肩を掴んで乱暴に揺さぶった。
「・・・あ?」
ゆっくりと三蔵が俺を見上げる。
「いきなり何だ」
「いきなり何だ、じゃねえだろ。何だよ突然出てけなんて言って!」
「てめえに言った訳じゃねえよ」
ゆっくりと肩に置かれた俺の手を払って(以前だったら叩き飛ばされてる処だ)、それから三蔵の手がついと空中を差した。
「見えねえか?そこに朱え・・・」

「ぎゃああああっ!!」

その言葉を最後まで聞かず、俺は部屋を飛び出した。





慌てて部屋を飛び出したもののアレはただの冗談だったのかも知れない、 盛大に取り乱しちゃって俺ってばハズカチーとか思いながら居間へと戻った。
開いた侭の扉からは、ぶつぶつと三蔵の独り言。

「寝てる時腹に乗るな。それから風呂に入って来んな。ガキの頃じゃねえんだから一人で入れる」

ふふふ、風呂!!?
あの、俺には見えないが六道のヤツは三蔵の風呂を覗いてやがるのか!? いや然しアレは三蔵の独り言だ独り言だ独り言大将の筈だ・・・ッ!!!(悶絶)

「あっ、アンタなッ!!三蔵と一緒に風呂入るなんて俺が赦さねえぞッ!」
勢い良く部屋に駆け込み誰もいない空間に向かって怒鳴りつける。
「・・・お前何処向いてんだ・・・」
ソファに腰掛けた侭の三蔵が指差す方向に向かい直す。
あ、どーもどーも、とか見えないのに一応頭を下げてみたりしてから再度訴える。
「三蔵と風呂に入って良いのは俺だけだかんな!」
「・・・風呂ぐらい一人で入れるっつってんだろ(怒)」







六道──朱泱がこの家に居ると言い張ってからの三蔵の態度は頑なだった。
そりゃ元より三蔵は部屋にいる時だって俺の肩に凭れるように体重を預けて来る事もなかったし、 だから俺だって隣に座る三蔵の肩を抱き寄せたり、 あまつさえ肩に廻した手を髪に絡めてみたり、なんて恋人同士らしい可愛らしくも睦まじい事なんてした事はなかった訳だが。

「三蔵、オヤスミ」
自分の枕を抱えて三蔵の部屋の扉を閉めながら挨拶する。
「おやすみ、じゃねえだろ。自分の部屋で寝ろ」
「いいじゃんたまには」
言って、強引に毛布を捲り上げて狭い寝台に身体を割り込ませる。
「ガキじゃねえんだ。出てけ」
「何もしないから、ね?」
啄むだけの口付けを落とすと三蔵は驚いたように一瞬きょとんとした表情を見せるがすぐに頬を僅かに朱に染めて
「仕方ねえな」
と言う。
大人しく腕の中に収まるその人を毛布ごとくるみ込んで段々と口付けを濃厚なものにして行く。 舌を口内に潜り込ませるとムキになって三蔵は俺の動きを真似ようとするから追い上げるように深く淫らに舌を絡ませて。
「・・・んん、ふ・・・っ」
息が上がってきた三蔵が色っぽい声を零すのを合図に寝間着の袷に手を差し入れて両足の間に膝を入れて裾も割り開く。
「あ・・・っ、やめっ、てめっ、何もしない、って」
それには答えず露わになった胸元に唇を這わせ両手で白い単衣の袷を大きく広げる。
「ふ・・・、ふざっけんなあああっ!!」
スパアアアン!!
「てめっ!何すんだ!」
「何すんだはこっちの台詞だろうがっ!毎日毎日付き合いきれるかっ!」
「毎日毎日毎日毎日って言われる程やっちゃいねえだろうがっ!!」
「なっ、誰が毎日毎日毎日毎日だっ!」
ぼふんと音を立てて枕が俺の顔面に投げ付けられる。
「・・・っ、このボーズ・・・!」
枕を腕で払いのけながら大声を上げかける、が、耳まで赤くしている三蔵を見て、止めた。
口に出しては言わないが、三蔵がこの家にいるのだと言う朱泱と言う人を気にしているのはバレバレだった。
俺には見えないが。
「ち・・・」
俺と三蔵の間に転がった侭の枕を指先に引っかけてひっ掴みベッドから降りて三蔵の部屋を後にした。
三蔵は俺を引き留めもしなかった。

朱泱と言う人が居るのか居ないのか俺には見えはしない。 見えはしないがあの人が来てからと言うもの俺と三蔵は喧嘩ばかりだ。







「ただいまー」
仕事から帰ってみれば俺宛の荷物が届いていた。
つうか誰もいなければ受け取れる筈はないから三蔵が用があって一度帰って来たとかで受け取って、 そして再び出掛けたと言う処だろう。
折角一緒に暮らし始めたとは言っても意識して同じ時間に家にいるようにしないと殆ど顔を合わせる事もなくて、 まるで別々に暮らしているみたいだ、とはあ、と大きく溜息を吐きながら思う。
例えば互いに顔を合わせる気にならなければ一日だろうと二日だろうと丸っきり顔を見ないでいる事も思ったより簡単だった。 もう、二日も三蔵とはロクに口もきいていなかった。
いや、正確には「口をきいてもらえない」のだ。
項垂れて小包を手にとってみれば、旅の間に何度か目にした事のあるオレンジ色の猫の絵の入った伝票が貼ってあった。
「アレ、これ・・・」
仏教関係者御用達の宅急便業者の筈だ、三蔵の言葉を信じるならば。 何でソレで俺宛なのか、間違いじゃねえの?と差出人名を見てみると、
そこには

光明三蔵

何で三蔵の師匠から??
やっぱ間違いじゃねえの、と疑いながらも包みを開封した。
小さいながらもずしりと重いその中には「下町の○ポレオン」が鎮座ましましていた。

「・・・・・・。」
どうせなら「下町の」が付かないナポレオンの方が、と思ったがそれでも酒は酒だ。 まあちっとは嬉しいかなー、とは思うがホントに何で三蔵の師匠が俺宛にこんな・・・。 そう思った時箱の蓋に何かの紙が張り付いているのを発見した。 かさと音を立てて開いてみると達筆な筆文字で文がしたためられていたのだがその一文は
「朱泱を宜しくお願いします」

よろしくヨロシク。宜しくって言われたって。
「って言うかあの人(見えないけど)これからもずっと居る訳か?」




web拍手で展開してたセルフパロディ再録+再編。 「あめのふるよるは」設定で「花満天」。

続く

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